養生訓 / 巻第七・用薬
一凡藥を煎ずるに水をえらぶべし。淸くして味よきを用ふ。新に汲む水を用ふべし。早天に汲む水を井華水と云ふ。藥を煎ずべし。又茶と羹を煮るべし。新汲水は、平旦ならでも、新に汲みていまだ器に入れざるを云ふ。是亦用ふべし。汲みて器に入れ久しくなるは用ふべからず。
新字:一凡薬を煎ずるに水をえらぶべし。清くして味よきを用ふ。新に汲む水を用ふべし。早天に汲む水を井華水と云ふ。薬を煎ずべし。又茶と羹を煮るべし。新汲水は、平旦ならでも、新に汲みていまだ器に入れざるを云ふ。是亦用ふべし。汲みて器に入れ久しくなるは用ふべからず。
書き下し
一凡薬を煎ずるに水をえらぶべし。清くして味よきを用ふ。新に汲む水を用ふべし。早天に汲む水を井華水と云ふ。薬を煎ずべし。又茶と羹を煮るべし。新汲水は、平旦ならでも、新に汲みていまだ器に入れざるを云ふ。是亦用ふべし。汲みて器に入れ久しくなるは用ふべからず。
現代語訳
およそ薬を煎じるには水を選ぶべきです。清らかで味のよいものを用います。新しく汲んだ水を用いるべきです。早朝に汲む水を井華水といいます。薬を煎じるのによいものです。また茶や汁物を煮るのにもよいものです。新汲水とは、明け方でなくても、新しく汲んでまだ器に入れていないものをいいます。これもまた用いてよいものです。汲んで器に入れて長くたったものは用いてはいけません。
解説
薬を煎じる水の選び方を述べた条です。早朝に汲んだ井戸水を「井華水」と呼んで最上とし、明け方でなくても汲みたてなら用いてよいが、器に入れて長く置いた水は使うなと述べています。前の巻で説いた、新しいものには陽気と生気があるという考えを水にも当てはめたものです。薬だけでなく茶や汁物にもよいとしているのは、毎日の暮らしの中で水の質に気を配る大切さを示しています。汲み置きの水より新しい水をという心がけは、衛生の面からも理にかなっています。
この章句が説くこと
水井華水鮮度薬衛生
関連する章句
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『養生訓』巻第四・飲茶烟草附一薬と茶を煎ずるに水をえらぶべし。清く味甘きをよしとす。雨水を用ふるも味よし。雨中に浄器を庭に置きてとる、地水にまさる。然れども是は久しくたもたず、雪水を尤よしとす。一茶を煎ずる法、よわき火にて炒り、つよき火にて煎ず。煎ずるに堅き炭のよくもゆるをさかんに焚きて煎ず。たぎりあがる時冷水をさす。如此すれば茶の味よし。つよき火にて炒るべからず、ぬるくやはらかなる火にて煎ずべからず。右は皆もろこしの書にも出でたり。湯わく時薏苡の生葉を加へて煎ずれば、香味尤よし、性よし。本草に、暑月煎じ飲めば胃を暖め、気血をます。
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『養生訓』巻第三・飲食上一天よりすぐに下る雨水は性よし、毒なし。器にうけて、薬と茶を煎ずるによし。雪水は尤よし。屋漏水大毒あり、たまり水は飲むべからず。たまり水の、地を漏り来る水のむべからず、井のあたりに、汚濁のたまり水あらしむべからず。地をもり通りて井に入る、甚だ忌むべし。
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『養生訓』巻第七・用薬一利薬を久しく煎じつめては、消導発散すべき生気の力なし。煎じつめずして飪を失はざる生気あるを服して、病をせむべし。たとへば、茶を煎じ、生魚を煮、豆腐を煮るが如し。生熟の間よき程の飪を失はざれば、味よくして痞へず。飪を失へば、味あしくしてつかへやすきが如し。
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『養生訓』巻第七・用薬一世俗には、振薬とて、薬を袋に入れて、熱湯につけて、箸にてはさみ、しきりに振動し、薬汁を出して服す。是は、自然に薬汁出づるにあらず、しきりにふり出す故、薬湯にごり、薬力滞りやすし。補薬は、常の煎法の如く、煎じ熟すべし。泡薬に宜しからず。凡、煎薬を入るる袋は、あらき布はあしし。薬末もりて、薬汁にごれば滞りやすし。もろこしの書にて、泡薬の事いまだ見ずといへども、今の時宜によりて用ふるも可なり。古法にあらずしても、時宜によくかなはば用ふべし。
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『養生訓』巻第七・用薬大熱ありて渇する病には、其の宜に随ひて、多く用ふべし。補薬を煎ずるには、一盞に水を入るる事、盞の重さを除き、水の重さ五十匁より、五十五匁に至る。是亦、一般の大小に随ひて、水を增減すべし。虚人の薬小服なるには、水五十匁入る盞を用ふべし。壮人の薬、大服なるには、水五十五匁入る盞を用ふべし。一服に水二盞入れて、けし炭を用ひ、文火にてゆるやかに煎じつめて、一盞とし、滓には水一盞入れて、半盞にせんじ、前後合はせて一盞半となるを、少しづつ痞へざるやうに、空腹に三四度に熱服す。補湯は、一日に一服、若しつかへやすき人は、人により、朝夕は飲みがたし。昼夜二度のむ。短日は、二度はつかへて服しがたき人あり。病人によるべし。つかへざる人には、朝夕昼間一日一服、猶其の上も服すべし。食滞あらば、補湯飲むべからず、食滞めぐりて後飲むべし。
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『養生訓』巻第七・用薬早く蓋をして、しばし置くべし。久しくふたをおけば、薬汁出で過ぎて、力なし。薬汁出で、熱湯の少しさめて、温になりたる好燗の時飲むべし。かくの如くして、二度泡し、二度飲みて後、其滓は捨つべし。袋のかすを搾るべからず。薬汁濁りてあしし。此法、薬力つよし。利薬には、此煎法も宜し。外邪、食傷、腹痛、霍乱などの病には、煎湯よりも、此法の功するどなり。用ふべし。振薬は、用ふべからず。此法、薬汁早く出で薬力つよし。たとへば、茶を沸湯に浸して其にえばなを飲めば、其気つよく味もよし。久しく煎じ過せば、茶の味も気もあしくなるが如し。
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