養生訓 / 巻第七・用薬
大熱ありて渴する病には、其の宜に隨ひて、多く用ふべし。補藥を煎ずるには、一盞に水を入るゝ事、盞の重さを除き、水の重さ五十匁より、五十五匁に至る。是亦、一般の大小に隨ひて、水を增減すべし。虛人の藥小服なるには、水五十匁入る盞を用ふべし。壯人の藥、大服なるには、水五十五匁入る盞を用ふべし。一服に水二盞入れて、けし炭を用ひ、文火にてゆるやかに煎じつめて、一盞とし、滓には水一盞入れて、半盞にせんじ、前後合はせて一盞半となるを、少しづつ痞へざるやうに、空腹に三四度に熱服す。補湯は、一日に一服、若しつかへやすき人は、人により、朝夕は飮みがたし。晝夜二度のむ。短日は、二度はつかへて服しがたき人あり。病人によるべし。つかへざる人には、朝夕晝間一日一服、猶其の上も服すべし。食滯あらば、補湯飮むべからず、食滯めぐりて後飲むべし。
新字:大熱ありて渇する病には、其の宜に随ひて、多く用ふべし。補薬を煎ずるには、一盞に水を入るゝ事、盞の重さを除き、水の重さ五十匁より、五十五匁に至る。是亦、一般の大小に随ひて、水を增減すべし。虚人の薬小服なるには、水五十匁入る盞を用ふべし。壮人の薬、大服なるには、水五十五匁入る盞を用ふべし。一服に水二盞入れて、けし炭を用ひ、文火にてゆるやかに煎じつめて、一盞とし、滓には水一盞入れて、半盞にせんじ、前後合はせて一盞半となるを、少しづつ痞へざるやうに、空腹に三四度に熱服す。補湯は、一日に一服、若しつかへやすき人は、人により、朝夕は飲みがたし。昼夜二度のむ。短日は、二度はつかへて服しがたき人あり。病人によるべし。つかへざる人には、朝夕昼間一日一服、猶其の上も服すべし。食滞あらば、補湯飲むべからず、食滞めぐりて後飲むべし。
書き下し
大熱ありて渇する病には、其の宜に随ひて、多く用ふべし。補薬を煎ずるには、一盞に水を入るる事、盞の重さを除き、水の重さ五十匁より、五十五匁に至る。是亦、一般の大小に随ひて、水を增減すべし。虚人の薬小服なるには、水五十匁入る盞を用ふべし。壮人の薬、大服なるには、水五十五匁入る盞を用ふべし。一服に水二盞入れて、けし炭を用ひ、文火にてゆるやかに煎じつめて、一盞とし、滓には水一盞入れて、半盞にせんじ、前後合はせて一盞半となるを、少しづつ痞へざるやうに、空腹に三四度に熱服す。補湯は、一日に一服、若しつかへやすき人は、人により、朝夕は飲みがたし。昼夜二度のむ。短日は、二度はつかへて服しがたき人あり。病人によるべし。つかへざる人には、朝夕昼間一日一服、猶其の上も服すべし。食滞あらば、補湯飲むべからず、食滞めぐりて後飲むべし。
現代語訳
大熱があって渇く病には、その適したところに従って多く用いるべきです。補薬を煎じるには、一杯に水を入れる量は、杯の重さを除いて水の重さ五十匁から五十五匁に至ります。これもまた一服の大小に従って水を増減すべきです。虚弱な人の薬で分量の小さいものには、水五十匁入る杯を用いるべきです。壮健な人の薬で分量の大きいものには、水五十五匁入る杯を用いるべきです。一服に水二杯を入れて、消し炭を用い、弱火でゆるやかに煎じつめて一杯とし、かすには水一杯を入れて半杯に煎じ、前後合わせて一杯半となったものを、つかえないように少しずつ、空腹時に三、四度に分けて熱いうちに飲みます。補湯は一日に一服、もしつかえやすい人は、人によっては朝夕には飲みにくいものです。昼と夜の二度飲みます。日の短い時期は、二度ではつかえて飲みにくい人もいます。病人によるべきです。つかえない人は、朝・夕・昼間で一日一服、さらにそれ以上飲んでもよいでしょう。食べ物がとどこおっていれば補湯を飲んではならず、とどこおりがめぐってから飲むべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第七・用薬一補湯は、煎湯熱き時、少しづつ飲めばつかへず。少しづつ飲みて、ゆるやかに験を得べし。一時に多く服すべからず。補湯を服する間、殊に酒食を過さず、一切の停滞する物くらふべからず。酒食滞塞し、或は薬を服し過し、薬力めぐらざれば、気をふさぎ、腹中滞り、食を妨けて病をます。しるしなくして害あり。故に補薬を用ふる事、其節制むづかし。良医は、用ひやう能くして、なづまず。庸医は、用ひやうあしくして、滞る。古人は、補薬を用ふる其間に、邪を去る薬を兼ね用ふ。邪気去れば、補薬にちからあり。補に専一なれば、なづみて益なく、かへつて害あり。是、古人の説なり。
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『養生訓』巻第七・用薬一身体短小にして、腸胃小なる人、虚弱なる人は、薬を服するに、小服に宜し。されど一匁より少かるべからず。身体長大にて、腸胃ひろき人、つよき人は、薬大服に宜し。一小児の薬に、水をはかる盞は、一服の大小によりて、是も水五十匁より、五十五匁入るほどなる盞を用ふ。是亦、盞の重さを除きて、水の重さなり。利湯は、一服に水一盞入れ、七分に煎じ、二三度に用ふ。滓は、捨つべし。補湯には、水一盞半を用ひて、七分に煎じ、度々に熱服す。是亦滓は捨つべし。或は、滓にも水一盞入れ、半盞に煎じつめて用ふべし。
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『養生訓』巻第七・用薬一婦人の薬は、男子より小服に宜し。利湯は、一服一匁二分より、一匁八分に至り、補湯は、一匁より一匁五分にいたるべし。気体強大ならば、是より大服に宜し。一小児の薬一服は、五分より一匁に至るべし。是亦、児の大小をはかりて增減すべし。一大人の利薬を煎ずるに、水をはかる盞は、一盞に水を入るる事、大抵五十五匁より、六十匁に至るべし。是盞の重さを除きて、水の重さなり。一服の大小に随ひて、水を增減すべし。利薬は、一服に水一盞半入れて、薪を焚き、或は、かたき炭を多くたきて、武火を以て、一盞にせんじ、一盞を二度にわかち、一度に半盞服すべし。滓は捨つべし、二度煎ずべからず。病つよくば、一日一夜に二服、猶其の上にいたるべし。
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『養生訓』巻第七・用薬一補薬は、滞塞しやすし。滞塞すれば害あり、益なし、利薬を服するより、心を用ふべし。もし、大剤にして気塞がらば、小剤にすべし。或は、棗を去り、生姜を增すべし。補中益気湯などの、つかへて用ひがたきには、乾姜肉桂を加ふべき由、薛立斎が医案にいへり。又、症により、附子肉桂を少し加へ、升麻柴胡を用ふるに、二薬ともに火を忌めども、酒にて炒り用ふ。これ正伝或問の説なり。又升麻柴胡を去りて、桂姜を加ふる事あり。李時珍も、補薬に少し附子を加ふれば、其功鋭なりといへり。虚人の熱なき症に、薬力をめぐらさん為ならば、一服に五厘か一匁加ふべし。然れども、病症によるべし。壮人には忌むべし。
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『養生訓』巻第七・用薬一薬一服の大小軽重は、病症により人の大小強弱によりて增減すべし。補湯は、小剤にして少しづつ服し、おそく効をとるべし。多く用ひ過せば滞りふさがる。発散瀉下疎通の利湯は、大剤にしてつよきに宜し、早く効をとるべし。
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『養生訓』巻第七・用薬一いかなる珍味も、これを煮る法ちがひて悪しければ、味あしし。良薬も、煎法ちがへば、験なし。此の故に、薬を煎ずる法に、よく心を用ふべし。文火とは、やはらかなる火なり。武火とは、つよき火なり。文武火とは、強からず柔かならざる、よき加減の火なり。風寒を発散し、食滞を消導する類の剛剤を利薬と云ふ。利薬は、武火にてせんじて、はやく煮あげ、いまだ熟せざる時、生気のつよきを服すべし。如此すれば、薬力つよくして、邪気に勝ちやすし。久しく煎じて熟すれば、薬に生気の力なくしてよわく、邪気にかちがたし。補湯は、やはらかなる文火にて、ゆるやかに久しく煎じつめて、よく熟すべし。如此ならざれば、純補しがたし。ここを以て、利薬は、生に宜しく、熟に宜しからず。補薬は、熟に宜しくして、生に宜しからず。知るべし、薬を煎ずるに、此二法あり。
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