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養生訓 / 巻第四・飲酒

一酒をあたゝめ過して飪を失へると、或は溫めて時過ぎ冷えたると、二たびあたゝめて味の變じたると、皆脾胃をそこなふ。飮むべからず。一酒を人にすゝむるに、すぐれて多く飮む人も、よき程の節をすぐせばくるしむ。若其人の酒量を知らずんば、すこし强ひて飮ましむべし。其人辭して飮まずんば、其人にまかせて、みだりに强ひずして早くやむべし。量にみたず、すくなくて無興なるは害なし。すぎては必ず人に害あり。客に美饌を饗しても、みだりに酒を强ひて苦しましむるは情なし、大に醉はしむべからず。客は主人强ひずとも、つねよりは少し多く飮みて醉ふべし。主人は酒を妄にしひず、客は酒を辭せず、よき程に飮み醉ひて、よろこびを合せて樂めるこそ、是宜しかるべけれ。

新字:一酒をあたゝめ過して飪を失へると、或は温めて時過ぎ冷えたると、二たびあたゝめて味の変じたると、皆脾胃をそこなふ。飲むべからず。一酒を人にすゝむるに、すぐれて多く飲む人も、よき程の節をすぐせばくるしむ。若其人の酒量を知らずんば、すこし強ひて飲ましむべし。其人辞して飲まずんば、其人にまかせて、みだりに強ひずして早くやむべし。量にみたず、すくなくて無興なるは害なし。すぎては必ず人に害あり。客に美饌を饗しても、みだりに酒を強ひて苦しましむるは情なし、大に酔はしむべからず。客は主人強ひずとも、つねよりは少し多く飲みて酔ふべし。主人は酒を妄にしひず、客は酒を辞せず、よき程に飲み酔ひて、よろこびを合せて楽めるこそ、是宜しかるべけれ。

書き下し

一酒をあたため過して飪を失へると、或は温めて時過ぎ冷えたると、二たびあたためて味の変じたると、皆脾胃をそこなふ。飲むべからず。一酒を人にすすむるに、すぐれて多く飲む人も、よき程の節をすぐせばくるしむ。若其人の酒量を知らずんば、すこし強ひて飲ましむべし。其人辞して飲まずんば、其人にまかせて、みだりに強ひずして早くやむべし。量にみたず、すくなくて無興なるは害なし。すぎては必ず人に害あり。客に美饌を饗しても、みだりに酒を強ひて苦しましむるは情なし、大に酔はしむべからず。客は主人強ひずとも、つねよりは少し多く飲みて酔ふべし。主人は酒を妄にしひず、客は酒を辞せず、よき程に飲み酔ひて、よろこびを合せて楽めるこそ、是宜しかるべけれ。

現代語訳

酒を温めすぎて煮えばなを失ったものや、温めてから時間がたって冷えたもの、二度温めて味の変わったものは、みな脾胃をそこないます。飲んではいけません。人に酒をすすめるとき、大いに飲む人でも、ちょうどよい程度を過ぎれば苦しみます。もしその人の酒量を知らないなら、少し勧めて飲ませてみるのがよいでしょう。その人が辞退して飲まないなら、その人にまかせて、むやみに勧めず早くやめるべきです。量に満たず、少なくて興がないのは害がありません。過ぎれば必ず人に害があります。客にごちそうをもてなしても、むやみに酒を強いて苦しませるのは思いやりがありません。大いに酔わせてはいけません。客は、主人が強いなくても、いつもより少し多めに飲んで酔うのがよいでしょう。主人は酒をむやみに強いず、客は酒を辞退せず、ほどよく飲み酔って、喜びを共にして楽しむのが、まことによいことです。

解説

酒の温め直しの害と、酒席での主客の心得を述べた単位です。相手の酒量がわからなければ少し勧めて様子を見る、断られたらすぐやめる、足りないのは害がないが過ぎれば必ず害があるという言葉は、今のアルコールハラスメントの問題にもそのまま当てはまります。一方で客の側にも、主人の好意を受けていつもより少し多めに飲むという礼を求めており、双方の心配りで場が和むという人間関係の知恵が示されています。

この章句が説くこと

酒礼もてなし節度人間関係

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