養生訓 / 巻第四・飲酒
一市に買ふ酒に灰を入れたるは毒あり。酸味あるも飮むべからず。酒久しくなりて味變じたるは毒あり。のむべからず。濁酒の濃きは脾胃に滯り、氣をふさぐ。飮むべからず。醇酒の美なるを朝夕飯後に少し飮んで微醉すべし。醴酒は製法精しきを少し熱飲すれば胃を厚くす。あしきを冷飲すべからず。
新字:一市に買ふ酒に灰を入れたるは毒あり。酸味あるも飲むべからず。酒久しくなりて味変じたるは毒あり。のむべからず。濁酒の濃きは脾胃に滞り、気をふさぐ。飲むべからず。醇酒の美なるを朝夕飯後に少し飲んで微酔すべし。醴酒は製法精しきを少し熱飲すれば胃を厚くす。あしきを冷飲すべからず。
書き下し
一市に買ふ酒に灰を入れたるは毒あり。酸味あるも飲むべからず。酒久しくなりて味変じたるは毒あり。のむべからず。濁酒の濃きは脾胃に滞り、気をふさぐ。飲むべからず。醇酒の美なるを朝夕飯後に少し飲んで微酔すべし。醴酒は製法精しきを少し熱飲すれば胃を厚くす。あしきを冷飲すべからず。
現代語訳
市場で買う酒で灰を入れたものには毒があります。酸味のあるものも飲んではいけません。酒が古くなって味の変わったものには毒があります。飲んではいけません。濃い濁り酒は脾胃にとどこおり、気をふさぎます。飲んではいけません。よく醸した上等の清酒を、朝夕の食後に少し飲んで、ほろ酔いになるのがよいでしょう。甘酒は、作り方の念入りなものを少し温めて飲めば胃を丈夫にします。出来の悪いものを冷やで飲んではいけません。
解説
酒の品質の見分け方と、よい酒の飲み方を述べた条です。市販の酒に灰を入れて酸味をごまかすことが当時は行われていたようで、そうした酒や古くなった酒、濃すぎる濁り酒を避けるよう注意しています。そのうえで、よく醸した清酒を食後に少し飲んでほろ酔いにとどめ、甘酒もよく作ったものを温めて少量飲めば胃によいと、飲み方の手本を示しました。量を控えるほど質にこだわるという考え方は、嗜好品との付き合い方全般に通じる知恵です。
この章句が説くこと
酒品質微酔甘酒脾胃
関連する章句
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『養生訓』巻第四・飲酒一酒をあたため過して飪を失へると、或は温めて時過ぎ冷えたると、二たびあたためて味の変じたると、皆脾胃をそこなふ。飲むべからず。一酒を人にすすむるに、すぐれて多く飲む人も、よき程の節をすぐせばくるしむ。若其人の酒量を知らずんば、すこし強ひて飲ましむべし。其人辞して飲まずんば、其人にまかせて、みだりに強ひずして早くやむべし。量にみたず、すくなくて無興なるは害なし。すぎては必ず人に害あり。客に美饌を饗しても、みだりに酒を強ひて苦しましむるは情なし、大に酔はしむべからず。客は主人強ひずとも、つねよりは少し多く飲みて酔ふべし。主人は酒を妄にしひず、客は酒を辞せず、よき程に飲み酔ひて、よろこびを合せて楽めるこそ、是宜しかるべけれ。
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『養生訓』巻第四・飲酒一凡酒はただ朝夕の飯後にのむべし。昼と夜と空腹に飲むべからず。皆害あり。朝間空腹にのむは、殊更脾胃をやぶる。一凡酒は夏冬ともに冷飲熱飲に宜しからず。温酒を飲むべし。熱飲は気升る。冷飲は痰をあつめ、胃をそこなふ。丹渓は、酒は冷飲に宜しといへり。然れども、多く飲む人冷飲すれば脾胃を損ず。少し飲む人も、冷飲すれば食気を滞らしむ。凡酒をのむは、其温気をかりて陽気を助け、食滞をめぐらさんかためなり。冷飲すれば二の益なし。温酒の陽を助け、気をめぐらすにしかず。
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『養生訓』巻第四・飲酒一酒は天の美禄なり。少し飲めば、陽気を助け、血気をやはらげ、食気をめぐらし、愁を去り興を発して、甚人に益あり。多く飲めば、又よく人を害する事、酒に過ぎたる物なし。水火の人をたすけて、又よく人に災あるが如し。邵堯夫の詩に、美酒は飲みて微酔せしむる後といへるは、酒を飲むの妙を得たりと時珍いへり。少し飲み少し酔へるは、酒の禍なく、酒中の趣を得て楽多し。人の病酒によつて得るもの多し。酒を多く飲んで、飯をすくなく食ふ人は命短し。かくのごとく多く飲めば、天の美禄を以て、却て身をほろぼす也。かなしむべし。
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『養生訓』巻第四・飲酒一酒を飲むには、各人によりてよき程の節あり。少し飲めば益多く、多く飲めば損多し。性謹厚なる人も、多飲を好めばむさぼりて見ぐるしく、平生の心を失ひ、乱に及ぶ。言行ともに狂せるがごとし。其平生とは似ず、身をかへりみ慎むべし。若き時より、早くかへりみてみづから戒め、父兄もはやく子弟を戒むべし。久しくならへば性となる。くせになりては一生改まりがたし。生れつきて飲量すくなき人は、一二盞飲めば酔ひて気快く楽あり。多く飲む人と其楽同じ。多飲するは害多し。白楽天が詩に、一飲一石の者、徒らに多きを以て貴しと為す。其の酩酊の時に及んでは、我と亦異なること無し。笑ひて多飲の者に謝す、酒銭徒らに自ら費すとといへるはむべなり。
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『養生訓』巻第三・飲食上一飯はよく熟して、中心まで和かなるべし。こはく粘きを忌む。煖なるに宜し。羹は熱きに宜し。酒は夏月も温なるべし。冷飲は脾胃をやぶる。冬月も熱飲すべからず。気を上せ血液をへらす。一飯を炊ぐに法多し。たきぼしは壮実なる人に宜し。饙は、積聚気滞ある人に宜し。湯取飯は、脾胃虚弱の人に宜し。粘りて糊の如くなるは滞塞す。硬きは消化し難し、新穀の飯は性つよくして虚人はあしし。殊に早稲は気を動かす、病人に忌む。晩稲は性かろくしてよし。
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