養生訓 / 巻第四・飲酒
一凡酒はたゞ朝夕の飯後にのむべし。晝と夜と空腹に飮むべからず。皆害あり。朝間空腹にのむは、殊更脾胃をやぶる。一凡酒は夏冬ともに冷飮熱飮に宜しからず。溫酒を飮むべし。熱飮は氣升る。冷飮は痰をあつめ、胃をそこなふ。丹溪は、酒は冷飮に宜しといへり。然れども、多く飮む人冷飮すれば脾胃を損ず。少し飮む人も、冷飮すれば食氣を滯らしむ。凡酒をのむは、其溫氣をかりて陽氣を助け、食滯をめぐらさんかためなり。冷飮すれば二の益なし。溫酒の陽を助け、氣をめぐらすにしかず。
新字:一凡酒はたゞ朝夕の飯後にのむべし。昼と夜と空腹に飲むべからず。皆害あり。朝間空腹にのむは、殊更脾胃をやぶる。一凡酒は夏冬ともに冷飲熱飲に宜しからず。温酒を飲むべし。熱飲は気升る。冷飲は痰をあつめ、胃をそこなふ。丹渓は、酒は冷飲に宜しといへり。然れども、多く飲む人冷飲すれば脾胃を損ず。少し飲む人も、冷飲すれば食気を滞らしむ。凡酒をのむは、其温気をかりて陽気を助け、食滞をめぐらさんかためなり。冷飲すれば二の益なし。温酒の陽を助け、気をめぐらすにしかず。
書き下し
一凡酒はただ朝夕の飯後にのむべし。昼と夜と空腹に飲むべからず。皆害あり。朝間空腹にのむは、殊更脾胃をやぶる。一凡酒は夏冬ともに冷飲熱飲に宜しからず。温酒を飲むべし。熱飲は気升る。冷飲は痰をあつめ、胃をそこなふ。丹渓は、酒は冷飲に宜しといへり。然れども、多く飲む人冷飲すれば脾胃を損ず。少し飲む人も、冷飲すれば食気を滞らしむ。凡酒をのむは、其温気をかりて陽気を助け、食滞をめぐらさんかためなり。冷飲すれば二の益なし。温酒の陽を助け、気をめぐらすにしかず。
現代語訳
およそ酒は、ただ朝夕の食後に飲むべきです。昼と夜に空腹で飲んではいけません。どれも害があります。朝のうちに空腹で飲むのは、とりわけ脾胃をそこないます。およそ酒は、夏も冬も、冷や酒も熱燗もよくありません。温めた酒を飲むべきです。熱燗は気がのぼります。冷や酒は痰を集め、胃をそこないます。朱丹渓は、酒は冷やで飲むのがよいと言いました。けれども、多く飲む人が冷やで飲めば脾胃をそこないます。少し飲む人も、冷やで飲めば食べた物の気をとどこおらせます。およそ酒を飲むのは、その温かい気を借りて陽気を助け、食べた物のとどこおりをめぐらせるためです。冷やで飲めばこの二つの益がありません。温かい酒が陽気を助け、気をめぐらせるのには及びません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第四・飲酒一市に買ふ酒に灰を入れたるは毒あり。酸味あるも飲むべからず。酒久しくなりて味変じたるは毒あり。のむべからず。濁酒の濃きは脾胃に滞り、気をふさぐ。飲むべからず。醇酒の美なるを朝夕飯後に少し飲んで微酔すべし。醴酒は製法精しきを少し熱飲すれば胃を厚くす。あしきを冷飲すべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一飯はよく熟して、中心まで和かなるべし。こはく粘きを忌む。煖なるに宜し。羹は熱きに宜し。酒は夏月も温なるべし。冷飲は脾胃をやぶる。冬月も熱飲すべからず。気を上せ血液をへらす。一飯を炊ぐに法多し。たきぼしは壮実なる人に宜し。饙は、積聚気滞ある人に宜し。湯取飯は、脾胃虚弱の人に宜し。粘りて糊の如くなるは滞塞す。硬きは消化し難し、新穀の飯は性つよくして虚人はあしし。殊に早稲は気を動かす、病人に忌む。晩稲は性かろくしてよし。
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『養生訓』巻第四・飲酒一酒をあたため過して飪を失へると、或は温めて時過ぎ冷えたると、二たびあたためて味の変じたると、皆脾胃をそこなふ。飲むべからず。一酒を人にすすむるに、すぐれて多く飲む人も、よき程の節をすぐせばくるしむ。若其人の酒量を知らずんば、すこし強ひて飲ましむべし。其人辞して飲まずんば、其人にまかせて、みだりに強ひずして早くやむべし。量にみたず、すくなくて無興なるは害なし。すぎては必ず人に害あり。客に美饌を饗しても、みだりに酒を強ひて苦しましむるは情なし、大に酔はしむべからず。客は主人強ひずとも、つねよりは少し多く飲みて酔ふべし。主人は酒を妄にしひず、客は酒を辞せず、よき程に飲み酔ひて、よろこびを合せて楽めるこそ、是宜しかるべけれ。
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『養生訓』巻第四・飲酒一酒は天の美禄なり。少し飲めば、陽気を助け、血気をやはらげ、食気をめぐらし、愁を去り興を発して、甚人に益あり。多く飲めば、又よく人を害する事、酒に過ぎたる物なし。水火の人をたすけて、又よく人に災あるが如し。邵堯夫の詩に、美酒は飲みて微酔せしむる後といへるは、酒を飲むの妙を得たりと時珍いへり。少し飲み少し酔へるは、酒の禍なく、酒中の趣を得て楽多し。人の病酒によつて得るもの多し。酒を多く飲んで、飯をすくなく食ふ人は命短し。かくのごとく多く飲めば、天の美禄を以て、却て身をほろぼす也。かなしむべし。
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『養生訓』巻第六・慎病一冬朝に出でて、遠くゆかば、酒を飲んで寒をふせぐべし。空腹にして寒にあたるべからず。酒をのまざる人は粥を食ふべし、生薑をも食ふべし。陰霧の中遠く行くべからず。やむ事を得ずして遠く行かば、酒食を以て防ぐべし。
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『養生訓』巻第四・飲食下一怒の後早く食すべからず、食後怒るべからず。憂ひて食すべからず、食して憂ふべからず。一腹中の食いまだ消化せざるに、又食すれば、性よき物も毒となる。腹中空虚になりて食すべし。一永夜寒甚しき時、もし夜飲食して寒を防ぐに宜しくば、晩饌の酒飯を数口減ずべし。又已むことを得ずして人の招に応じ、夜話に人の許に行きて食客とならば、晩饌の酒食をかねて減ずべし。如此にして、夜少し飲食すればやぶれなし、夜食は朝晩より進みやすし。心に任せて、恣にすべからず。
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