養生訓 / 巻第四・飲酒
一酒を飮むには、各人によりてよき程の節あり。少し飮めば益多く、多く飮めば損多し。性謹厚なる人も、多飮を好めばむさぼりて見ぐるしく、平生の心を失ひ、亂に及ぶ。言行ともに狂せるがごとし。其平生とは似ず、身をかへりみ愼むべし。若き時より、早くかへりみてみづから戒め、父兄もはやく子弟を戒むべし。久しくならへば性となる。くせになりては一生改まりがたし。生れつきて飮量すくなき人は、一二盞飮めば醉ひて氣快く樂あり。多く飮む人と其樂同じ。多飮するは害多し。白樂天が詩に、一飮一石者。徒以多爲貴。及其酩酊時。與我亦無異。笑謝多飮者。酒錢徒自費といへるはむべなり。
新字:一酒を飲むには、各人によりてよき程の節あり。少し飲めば益多く、多く飲めば損多し。性謹厚なる人も、多飲を好めばむさぼりて見ぐるしく、平生の心を失ひ、乱に及ぶ。言行ともに狂せるがごとし。其平生とは似ず、身をかへりみ慎むべし。若き時より、早くかへりみてみづから戒め、父兄もはやく子弟を戒むべし。久しくならへば性となる。くせになりては一生改まりがたし。生れつきて飲量すくなき人は、一二盞飲めば酔ひて気快く楽あり。多く飲む人と其楽同じ。多飲するは害多し。白楽天が詩に、一飲一石者。徒以多為貴。及其酩酊時。与我亦無異。笑謝多飲者。酒銭徒自費といへるはむべなり。
書き下し
一酒を飲むには、各人によりてよき程の節あり。少し飲めば益多く、多く飲めば損多し。性謹厚なる人も、多飲を好めばむさぼりて見ぐるしく、平生の心を失ひ、乱に及ぶ。言行ともに狂せるがごとし。其平生とは似ず、身をかへりみ慎むべし。若き時より、早くかへりみてみづから戒め、父兄もはやく子弟を戒むべし。久しくならへば性となる。くせになりては一生改まりがたし。生れつきて飲量すくなき人は、一二盞飲めば酔ひて気快く楽あり。多く飲む人と其楽同じ。多飲するは害多し。白楽天が詩に、一飲一石の者、徒らに多きを以て貴しと為す。其の酩酊の時に及んでは、我と亦異なること無し。笑ひて多飲の者に謝す、酒銭徒らに自ら費すとといへるはむべなり。
現代語訳
酒を飲むには、人それぞれにちょうどよい程度があります。少し飲めば益が多く、多く飲めば損が多いものです。性格が慎み深く重厚な人でも、多く飲むことを好めば、むさぼって見苦しくなり、ふだんの心を失い、乱れるに至ります。言うこともすることも、まるで狂ったようになります。ふだんの様子とは似ても似つかないので、わが身を振り返って慎むべきです。若いときから早く自分を振り返って戒め、父や兄も早くから子弟を戒めるべきです。長く習慣にすると性分となります。癖になってしまえば一生改まりにくいものです。生まれつき酒量の少ない人は、一、二杯飲めば酔って気分よく楽しめます。多く飲む人と、その楽しみは同じです。多く飲むのは害が多いものです。白楽天の詩に、「一度に一石も飲む者は、ただ多いことを尊いとしている。だがその酩酊したときには、私と何も違わない。笑って大酒飲みに言おう、酒代をむだに費やしているだけだと」とあるのは、もっともなことです。
解説
この章句が説くこと
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