養生訓 / 巻第三・飲食上
一酒食の後醉飽せば、天を仰ぎて酒食の氣を吐くべし。手を以て面及び腹腰をなで、食氣をめぐらすべし。一わかき人は、食後に弓を射、鎗太刀を習ひ、身をうごかし、步行すべし。勞動を過すべからず。老人も其氣體に應じ、少し勞動すべし。案によりかゝり、一處に久しく安坐すべからず。氣血を滯らしめ、飮食消化しがたし。
新字:一酒食の後酔飽せば、天を仰ぎて酒食の気を吐くべし。手を以て面及び腹腰をなで、食気をめぐらすべし。一わかき人は、食後に弓を射、鎗太刀を習ひ、身をうごかし、歩行すべし。労動を過すべからず。老人も其気体に応じ、少し労動すべし。案によりかゝり、一処に久しく安坐すべからず。気血を滞らしめ、飲食消化しがたし。
書き下し
一酒食の後酔飽せば、天を仰ぎて酒食の気を吐くべし。手を以て面及び腹腰をなで、食気をめぐらすべし。一わかき人は、食後に弓を射、鎗太刀を習ひ、身をうごかし、歩行すべし。労動を過すべからず。老人も其気体に応じ、少し労動すべし。案によりかかり、一処に久しく安坐すべからず。気血を滞らしめ、飲食消化しがたし。
現代語訳
酒食の後に酔って満腹になったら、天を仰いで酒食の気を吐きなさい。手で顔や腹・腰をなでて、食の気をめぐらせなさい。若い人は、食後に弓を射、槍や太刀を習い、身を動かし、歩きなさい。けれども労働を過ごしてはいけません。老人もその体力に応じて、少し体を動かしなさい。机に寄りかかって一か所に長く座っていてはいけません。気血を滞らせ、飲食が消化しにくくなります。
解説
食後の過ごし方を述べた条です。満腹になったら天を仰いで息を吐き、顔や腹をなでて気をめぐらせよという導引(按摩や体操)の工夫と、食後に体を動かせという教えが並びます。若い人には弓や武芸の稽古を、老人には体力に応じた軽い運動を勧め、長く座り込むことを戒めています。巻第一でも食後に数百歩歩けと説いていました。食後の軽い散歩が血糖値の上昇を抑えるという今の知見とも重なり、座りっぱなしの多い現代の働き方への注意としても読めます。
この章句が説くこと
食後運動導引養生老人
関連する章句
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『養生訓』巻第二・総論下一凡朝は早くおきて、手と面を洗ひ、髪をゆひ、事をつとめ、食後にはまづ腹を多くなで下し、食気をめぐらすべし。また京門のあたりを、手の食指のかたはらにて、すぢかひにしばしば撫づべし。腰をなで下して後、下にて静かにうつべし。あらくすべからず。もし食気滞らば、面を仰ぎて三四度食毒の気を吐くべし。朝夕の食後に、久しく安坐すべからず、必ずねぶり臥すべからず。久しく坐し、睡り臥せば、気ふさがりて病となり、久しきをつめば命みじかし。食後に毎度歩行する事、三百歩すべし。をりをり五六町歩行するは、尤よし。
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『養生訓』巻第五・五官一熱湯にて口をすすぐべからず、歯を損ず。一千金方曰、食し終るごとに、手を以て面をすり、腹をなで、津液を通流すべし。行歩する事数百歩すべし。飲食して即ち臥せば百病生ず。飲食して仰きに臥せば気痞となる。一医説曰、食して後、体倦むとも、即ち寝ぬる事なかれ。身を運動し、二三百歩しづかに歩行して後、帯をとき、衣をくつろげ、腰をのべて端坐し、両手にて心腹を按摩して、縦横に往来する事二十遍、又両手を以て、脇腰の間より、おさへ摩でて下る事数十遍ばかりにして、心腹の気ふさがらしめず、食滞手に随つて消化す。
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『養生訓』巻第三・飲食上一一切の煑たる者、よく熟して柔なるを食ふべし。こはき物、未熟物、煑過して飪を失へる物、心口にかなはざる物、食ふべからず。一我が家にては、飲食の節慎みやすし。他の饗席にありては、烹調生熟の節、我が心にかなはず、飣品多く過ぎやすし。客となりては、殊に飲食の節つつしむべし。一飯後に、力わざをすべからず、急に道を行くべからず。又馬を馳せ、高きにのぼり、嶮路に上るべからず。
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『養生訓』巻第一・総論上一身体は日々少しづつ労動すべし。久しく安坐すべからず。毎日飯後に、必ず庭圃の内数百足しづかに歩行すべし。雨中には室屋の内を幾度も徐行すべし。此くの如く日々朝晩運動すれば、鍼灸を用ひずして、飲食気血の滞なくして病なし。鍼灸をして、熱痛甚しき身の苦をこらへんより、かくの如くせば病なくして安楽なるべし。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、つとむべき事をよくつとめて、身をうごかし、気をめぐらすをよしとす。つとむべき事をつとめずして、臥す事を好み、身をやすめおこたりて動かさざるは、甚養生に害あり。久しく安坐し、身を動さざれば、元気めぐらず、食気とどこほりて病おこる。殊に臥す事を好み、ねぶり多きを忌む。食後には必ず数百歩歩行して、気をめぐらし、食を消すべし。ねぶり臥すべからず。父母につかへて力をつくし、君につかへてまめやかにつとめ、朝は早くおき、夕はおそく寝ね、四民ともに我が家事をよくつとめておこたらず。士となれる人は、いとけなき時より、書をよみ、手を習ひ、礼楽をまなび、弓を射、馬にのり、武芸をならひて、身をうごかすべし。
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『養生訓』巻第二・総論下およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし歩行して、久しく一所に安坐せざれば、血気めぐりて滞らず。養生の要務なり。日々かくのごとくすべし。呂氏春秋に曰く、流水は腐らず、戸枢は螻まず、動けばなり、形気も亦然り。いふ意は、流水は腐らず、たまり水はくさる。から戸のぢくの下のくるるは虫くはず。此二のものは、つねに動く故わざはひなし。人の身も亦かくの如し。一所に久しく安坐してうごかざれば、飲食とどこほり、血気めぐらずして病を生ず。食後に臥すと、昼臥すと、尤禁ずべし。夜も飲食の消化せざる内に早く臥せば、気をふさぎ病を生ず。是養生の道において尤いむべし。
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