養生訓 / 巻第二・総論下
およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし步行して、久しく一所に安坐せざれば、血氣めぐりて滯らず。養生の要務なり。日々かくのごとくすべし。呂氏春秋曰、流水不腐、戶樞不螻動也、形氣亦然。いふ意は、流水は腐らず、たまり水はくさる。から戶のぢくの下のくるゝは蟲くはず。此二のものは、つねに動く故わざはひなし。人の身も亦かくの如し。一所に久しく安坐してうごかざれば、飮食とゞこほり、血氣めぐらずして病を生ず。食後に臥すと、晝臥すと、尤禁ずべし。夜も飮食の消化せざる內に早く臥せば、氣をふさぎ病を生ず。是養生の道において尤いむべし。
新字:およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし歩行して、久しく一所に安坐せざれば、血気めぐりて滞らず。養生の要務なり。日々かくのごとくすべし。呂氏春秋曰、流水不腐、戸枢不螻動也、形気亦然。いふ意は、流水は腐らず、たまり水はくさる。から戸のぢくの下のくるゝは虫くはず。此二のものは、つねに動く故わざはひなし。人の身も亦かくの如し。一所に久しく安坐してうごかざれば、飲食とゞこほり、血気めぐらずして病を生ず。食後に臥すと、昼臥すと、尤禁ずべし。夜も飲食の消化せざる内に早く臥せば、気をふさぎ病を生ず。是養生の道において尤いむべし。
書き下し
およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし歩行して、久しく一所に安坐せざれば、血気めぐりて滞らず。養生の要務なり。日々かくのごとくすべし。呂氏春秋に曰く、流水は腐らず、戸枢は螻まず、動けばなり、形気も亦然り。いふ意は、流水は腐らず、たまり水はくさる。から戸のぢくの下のくるるは虫くはず。此二のものは、つねに動く故わざはひなし。人の身も亦かくの如し。一所に久しく安坐してうごかざれば、飲食とどこほり、血気めぐらずして病を生ず。食後に臥すと、昼臥すと、尤禁ずべし。夜も飲食の消化せざる内に早く臥せば、気をふさぎ病を生ず。是養生の道において尤いむべし。
現代語訳
およそ人の体は、欲を少なくし、ときどき体を動かし、手足を働かせて歩き、長く一か所に座り込まなければ、血気がめぐって滞りません。これは養生の大切な務めです。毎日このようにしなさい。『呂氏春秋』に「流れる水は腐らず、戸の軸は虫に食われない。動いているからである。人の形と気も同じである」とあります。その意味は、流れる水は腐らないが、たまり水は腐る、開き戸の軸の下の回るところは虫が食わない、ということです。この二つは常に動いているから災いがないのです。人の体もまた同じです。一か所に長く座って動かなければ、飲食が滞り、血気がめぐらずに病気になります。食後に横になることと、昼に寝ることは、特に禁じなさい。夜も飲食が消化しないうちに早く寝ると、気をふさいで病気になります。これは養生の道においてもっとも忌むべきことです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、つとむべき事をよくつとめて、身をうごかし、気をめぐらすをよしとす。つとむべき事をつとめずして、臥す事を好み、身をやすめおこたりて動かさざるは、甚養生に害あり。久しく安坐し、身を動さざれば、元気めぐらず、食気とどこほりて病おこる。殊に臥す事を好み、ねぶり多きを忌む。食後には必ず数百歩歩行して、気をめぐらし、食を消すべし。ねぶり臥すべからず。父母につかへて力をつくし、君につかへてまめやかにつとめ、朝は早くおき、夕はおそく寝ね、四民ともに我が家事をよくつとめておこたらず。士となれる人は、いとけなき時より、書をよみ、手を習ひ、礼楽をまなび、弓を射、馬にのり、武芸をならひて、身をうごかすべし。
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『養生訓』巻第二・総論下一凡朝は早くおきて、手と面を洗ひ、髪をゆひ、事をつとめ、食後にはまづ腹を多くなで下し、食気をめぐらすべし。また京門のあたりを、手の食指のかたはらにて、すぢかひにしばしば撫づべし。腰をなで下して後、下にて静かにうつべし。あらくすべからず。もし食気滞らば、面を仰ぎて三四度食毒の気を吐くべし。朝夕の食後に、久しく安坐すべからず、必ずねぶり臥すべからず。久しく坐し、睡り臥せば、気ふさがりて病となり、久しきをつめば命みじかし。食後に毎度歩行する事、三百歩すべし。をりをり五六町歩行するは、尤よし。
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『養生訓』巻第二・総論下一家に居て、時々わが体力の辛苦せざる程の労動をなすべし。吾が起居のいたづかはしきをくるしまず、室中の事奴婢をつかはずして、しばしばみづから起ちて、我が身を運用すべし。わが身を動用すれば、おもひのままにして、速に事調ひ、下部をつかふの心を労せず。是清心省事の益あり。かくの如くにして、常に身を労動すれば、気血めぐり、食気とどこほらず。是養生の要術なり。身をつねに休め怠るべからず。我に相応せる事をつとめて、手足を働すべし。時に動き、時に静なれば、気めぐりて滞らず。静に過ぐればふさがる、動に過ぐれば疲る、動にも静にも、久しかるべからず。一華佗が言に、人の身は労動すべし。労動すれば穀気きえて、血脈流通すといへり。
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『養生訓』巻第一・総論上一身体は日々少しづつ労動すべし。久しく安坐すべからず。毎日飯後に、必ず庭圃の内数百足しづかに歩行すべし。雨中には室屋の内を幾度も徐行すべし。此くの如く日々朝晩運動すれば、鍼灸を用ひずして、飲食気血の滞なくして病なし。鍼灸をして、熱痛甚しき身の苦をこらへんより、かくの如くせば病なくして安楽なるべし。
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『養生訓』巻第一・総論上一凡養生の道は、内慾をこらふるを以て本とす。本をつとむれば、元気つよくして外邪おかさず。内慾を慎まずして、元気よわければ、外邪にやぶられ易くして、大病となりて命をたもたず。内慾をこらふるに、其の大なる条目は、飲食をよきほどにして過さず、脾胃をやぶり病を発する物をくらはず。色慾をつつしみて精気を惜み、時ならずして臥さず。久しく睡る事をいましめ、久しく安坐せず。時々身をうごかして、気をめぐらすべし。殊に食後には、必ず数百歩歩行すべし。若久しく安坐し、又食後に穏坐し、ひる寝ね、食気いまだ消化せざるに早く臥しねぶれば、滞りて病を生じ、久しきをつめば、元気発生せずしてよわくなる。常に元気をへらす事を惜みて、言語をすくなくし、七情をよきほどにし、七情の内にて、取わき、いかり、かなしみ、うれひ、思ひをすくなくすべし。
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『養生訓』巻第二・総論下一千金方に曰く、養生の道、久しく行き、久しく坐し、久しく臥し、久しく視ることなかれ。一酒食の気いまだ消化せざる内に、臥して睡れば、必ず酒食とどこほり、気ふさがりて病となる。いましむべし。昼は必ず臥すべからず。大に元気を損ふ。もし大につかれたらば、うしろに恁りかかりてねぶるべし。もし臥さば、かたはらに人をおきて少しねぶるべし。久しくねぶらば、人に呼びさまさしむべし。
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