養生訓 / 巻第二・総論下
一凡朝は早くおきて、手と面を洗ひ、髪をゆひ、事をつとめ、食後にはまづ腹を多くなで下し、食氣をめぐらすべし。また京門のあたりを、手の食指のかたはらにて、すぢかひにしばしば撫づべし。腰をなで下して後、下にて靜かにうつべし。あらくすべからず。もし食氣滯らば、面を仰ぎて三四度食毒の氣を吐くべし。朝夕の食後に、久しく安坐すべからず、必ずねぶり臥すべからず。久しく坐し、睡り臥せば、氣ふさがりて病となり、久しきをつめば命みじかし。食後に每度步行する事、三百歩すべし。をりをり五六町步行するは、尤よし。
新字:一凡朝は早くおきて、手と面を洗ひ、髪をゆひ、事をつとめ、食後にはまづ腹を多くなで下し、食気をめぐらすべし。また京門のあたりを、手の食指のかたはらにて、すぢかひにしばしば撫づべし。腰をなで下して後、下にて静かにうつべし。あらくすべからず。もし食気滞らば、面を仰ぎて三四度食毒の気を吐くべし。朝夕の食後に、久しく安坐すべからず、必ずねぶり臥すべからず。久しく坐し、睡り臥せば、気ふさがりて病となり、久しきをつめば命みじかし。食後に毎度歩行する事、三百歩すべし。をりをり五六町歩行するは、尤よし。
書き下し
一凡朝は早くおきて、手と面を洗ひ、髪をゆひ、事をつとめ、食後にはまづ腹を多くなで下し、食気をめぐらすべし。また京門のあたりを、手の食指のかたはらにて、すぢかひにしばしば撫づべし。腰をなで下して後、下にて静かにうつべし。あらくすべからず。もし食気滞らば、面を仰ぎて三四度食毒の気を吐くべし。朝夕の食後に、久しく安坐すべからず、必ずねぶり臥すべからず。久しく坐し、睡り臥せば、気ふさがりて病となり、久しきをつめば命みじかし。食後に毎度歩行する事、三百歩すべし。をりをり五六町歩行するは、尤よし。
現代語訳
およそ朝は早く起きて、手と顔を洗い、髪を結い、なすべきことに取りかかり、食後にはまず腹を何度もなで下ろして、食べたものの気をめぐらせなさい。また脇腹の京門のあたりを、人差し指の脇で斜めに何度もなでなさい。腰をなで下ろしたあと、下のほうを静かに叩きなさい。荒々しくしてはいけません。もし食べたものの気が滞っていたら、顔を仰向けて三、四度、食毒の気を吐き出しなさい。朝夕の食後に長く座り込んではならず、決して眠って横になってはいけません。長く座り、眠り込んで横になると、気がふさがって病気になり、それが長く積み重なれば命が短くなります。食後にはそのたびに三百歩歩きなさい。ときどき五、六町ほど歩くのは、いっそうよいことです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第一・総論上一身体は日々少しづつ労動すべし。久しく安坐すべからず。毎日飯後に、必ず庭圃の内数百足しづかに歩行すべし。雨中には室屋の内を幾度も徐行すべし。此くの如く日々朝晩運動すれば、鍼灸を用ひずして、飲食気血の滞なくして病なし。鍼灸をして、熱痛甚しき身の苦をこらへんより、かくの如くせば病なくして安楽なるべし。
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『養生訓』巻第二・総論下およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし歩行して、久しく一所に安坐せざれば、血気めぐりて滞らず。養生の要務なり。日々かくのごとくすべし。呂氏春秋に曰く、流水は腐らず、戸枢は螻まず、動けばなり、形気も亦然り。いふ意は、流水は腐らず、たまり水はくさる。から戸のぢくの下のくるるは虫くはず。此二のものは、つねに動く故わざはひなし。人の身も亦かくの如し。一所に久しく安坐してうごかざれば、飲食とどこほり、血気めぐらずして病を生ず。食後に臥すと、昼臥すと、尤禁ずべし。夜も飲食の消化せざる内に早く臥せば、気をふさぎ病を生ず。是養生の道において尤いむべし。
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『養生訓』巻第一・総論上一凡養生の道は、内慾をこらふるを以て本とす。本をつとむれば、元気つよくして外邪おかさず。内慾を慎まずして、元気よわければ、外邪にやぶられ易くして、大病となりて命をたもたず。内慾をこらふるに、其の大なる条目は、飲食をよきほどにして過さず、脾胃をやぶり病を発する物をくらはず。色慾をつつしみて精気を惜み、時ならずして臥さず。久しく睡る事をいましめ、久しく安坐せず。時々身をうごかして、気をめぐらすべし。殊に食後には、必ず数百歩歩行すべし。若久しく安坐し、又食後に穏坐し、ひる寝ね、食気いまだ消化せざるに早く臥しねぶれば、滞りて病を生じ、久しきをつめば、元気発生せずしてよわくなる。常に元気をへらす事を惜みて、言語をすくなくし、七情をよきほどにし、七情の内にて、取わき、いかり、かなしみ、うれひ、思ひをすくなくすべし。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、つとむべき事をよくつとめて、身をうごかし、気をめぐらすをよしとす。つとむべき事をつとめずして、臥す事を好み、身をやすめおこたりて動かさざるは、甚養生に害あり。久しく安坐し、身を動さざれば、元気めぐらず、食気とどこほりて病おこる。殊に臥す事を好み、ねぶり多きを忌む。食後には必ず数百歩歩行して、気をめぐらし、食を消すべし。ねぶり臥すべからず。父母につかへて力をつくし、君につかへてまめやかにつとめ、朝は早くおき、夕はおそく寝ね、四民ともに我が家事をよくつとめておこたらず。士となれる人は、いとけなき時より、書をよみ、手を習ひ、礼楽をまなび、弓を射、馬にのり、武芸をならひて、身をうごかすべし。
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『養生訓』巻第五・五官一熱湯にて口をすすぐべからず、歯を損ず。一千金方曰、食し終るごとに、手を以て面をすり、腹をなで、津液を通流すべし。行歩する事数百歩すべし。飲食して即ち臥せば百病生ず。飲食して仰きに臥せば気痞となる。一医説曰、食して後、体倦むとも、即ち寝ぬる事なかれ。身を運動し、二三百歩しづかに歩行して後、帯をとき、衣をくつろげ、腰をのべて端坐し、両手にて心腹を按摩して、縦横に往来する事二十遍、又両手を以て、脇腰の間より、おさへ摩でて下る事数十遍ばかりにして、心腹の気ふさがらしめず、食滞手に随つて消化す。
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『養生訓』巻第三・飲食上一酒食の後酔飽せば、天を仰ぎて酒食の気を吐くべし。手を以て面及び腹腰をなで、食気をめぐらすべし。一わかき人は、食後に弓を射、鎗太刀を習ひ、身をうごかし、歩行すべし。労動を過すべからず。老人も其気体に応じ、少し労動すべし。案によりかかり、一処に久しく安坐すべからず。気血を滞らしめ、飲食消化しがたし。
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