養生訓 / 巻第一・総論上
一身體は日々少しづつ勞動すべし。久しく安坐すべからず。每日飯後に、必ず庭圃の内數百足しづかに步行すべし。雨中には室屋の內を幾度も徐行すべし。如此日々朝晩運動すれば、鍼灸を用ひずして、飮食氣血の滯なくして病なし。鍼灸をして、熱痛甚しき身の苦をこらへんより、かくの如くせば病なくして安樂なるべし。
新字:一身体は日々少しづつ労動すべし。久しく安坐すべからず。毎日飯後に、必ず庭圃の内数百足しづかに歩行すべし。雨中には室屋の内を幾度も徐行すべし。如此日々朝晩運動すれば、鍼灸を用ひずして、飲食気血の滞なくして病なし。鍼灸をして、熱痛甚しき身の苦をこらへんより、かくの如くせば病なくして安楽なるべし。
書き下し
一身体は日々少しづつ労動すべし。久しく安坐すべからず。毎日飯後に、必ず庭圃の内数百足しづかに歩行すべし。雨中には室屋の内を幾度も徐行すべし。此くの如く日々朝晩運動すれば、鍼灸を用ひずして、飲食気血の滞なくして病なし。鍼灸をして、熱痛甚しき身の苦をこらへんより、かくの如くせば病なくして安楽なるべし。
現代語訳
体は毎日少しずつ働かせるべきです。長く座り込んではなりません。毎日食後には必ず庭や畑の中を数百歩静かに歩くべきです。雨の日には家の中を何度もゆっくり歩くべきです。このように毎日朝晩運動すれば、鍼灸を用いなくても、飲食や気血の滞りがなくて病はありません。鍼灸をして、熱さ痛さのひどい身の苦しみをこらえるよりも、このようにすれば病がなくて安楽でしょう。
解説
毎食後に数百歩を静かに歩き、雨の日は室内を歩け、という具体的な運動の勧めです。激しい鍛錬ではなく、少しずつ毎日続けることに重点があります。数百歩といえば数分の散歩ですが、益軒はこれを鍼灸の苦しみを避ける最良の方法だと言います。在宅勤務や長時間のデスクワークで歩数が減りがちな今、食後に家の中を歩く、階段を使うといった小さな運動は、そのまま取り入れられる知恵です。天気を言い訳にしない工夫も含まれています。
この章句が説くこと
運動散歩食後養生習慣
関連する章句
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、つとむべき事をよくつとめて、身をうごかし、気をめぐらすをよしとす。つとむべき事をつとめずして、臥す事を好み、身をやすめおこたりて動かさざるは、甚養生に害あり。久しく安坐し、身を動さざれば、元気めぐらず、食気とどこほりて病おこる。殊に臥す事を好み、ねぶり多きを忌む。食後には必ず数百歩歩行して、気をめぐらし、食を消すべし。ねぶり臥すべからず。父母につかへて力をつくし、君につかへてまめやかにつとめ、朝は早くおき、夕はおそく寝ね、四民ともに我が家事をよくつとめておこたらず。士となれる人は、いとけなき時より、書をよみ、手を習ひ、礼楽をまなび、弓を射、馬にのり、武芸をならひて、身をうごかすべし。
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『養生訓』巻第一・総論上又風寒暑湿の外邪をおそれふせぎ、起居動静を節にし慎み、食後には歩行して身を動かし、時々導引して腰腹を撫ですり、手足をうごかし労動して血気をめぐらし、飲食を消化せしむべし。一所に久しく安坐すべからず。是皆養生の要なり。養生の道は病なき時つつしむにあり。病発りて後、薬を用ひ、針灸を以て病をせむるは養生の末なり。本をつとむべし。
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『養生訓』巻第二・総論下一凡朝は早くおきて、手と面を洗ひ、髪をゆひ、事をつとめ、食後にはまづ腹を多くなで下し、食気をめぐらすべし。また京門のあたりを、手の食指のかたはらにて、すぢかひにしばしば撫づべし。腰をなで下して後、下にて静かにうつべし。あらくすべからず。もし食気滞らば、面を仰ぎて三四度食毒の気を吐くべし。朝夕の食後に、久しく安坐すべからず、必ずねぶり臥すべからず。久しく坐し、睡り臥せば、気ふさがりて病となり、久しきをつめば命みじかし。食後に毎度歩行する事、三百歩すべし。をりをり五六町歩行するは、尤よし。
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『養生訓』巻第二・総論下およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし歩行して、久しく一所に安坐せざれば、血気めぐりて滞らず。養生の要務なり。日々かくのごとくすべし。呂氏春秋に曰く、流水は腐らず、戸枢は螻まず、動けばなり、形気も亦然り。いふ意は、流水は腐らず、たまり水はくさる。から戸のぢくの下のくるるは虫くはず。此二のものは、つねに動く故わざはひなし。人の身も亦かくの如し。一所に久しく安坐してうごかざれば、飲食とどこほり、血気めぐらずして病を生ず。食後に臥すと、昼臥すと、尤禁ずべし。夜も飲食の消化せざる内に早く臥せば、気をふさぎ病を生ず。是養生の道において尤いむべし。
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『養生訓』巻第一・総論上一凡養生の道は、内慾をこらふるを以て本とす。本をつとむれば、元気つよくして外邪おかさず。内慾を慎まずして、元気よわければ、外邪にやぶられ易くして、大病となりて命をたもたず。内慾をこらふるに、其の大なる条目は、飲食をよきほどにして過さず、脾胃をやぶり病を発する物をくらはず。色慾をつつしみて精気を惜み、時ならずして臥さず。久しく睡る事をいましめ、久しく安坐せず。時々身をうごかして、気をめぐらすべし。殊に食後には、必ず数百歩歩行すべし。若久しく安坐し、又食後に穏坐し、ひる寝ね、食気いまだ消化せざるに早く臥しねぶれば、滞りて病を生じ、久しきをつめば、元気発生せずしてよわくなる。常に元気をへらす事を惜みて、言語をすくなくし、七情をよきほどにし、七情の内にて、取わき、いかり、かなしみ、うれひ、思ひをすくなくすべし。
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『養生訓』巻第二・総論下一家に居て、時々わが体力の辛苦せざる程の労動をなすべし。吾が起居のいたづかはしきをくるしまず、室中の事奴婢をつかはずして、しばしばみづから起ちて、我が身を運用すべし。わが身を動用すれば、おもひのままにして、速に事調ひ、下部をつかふの心を労せず。是清心省事の益あり。かくの如くにして、常に身を労動すれば、気血めぐり、食気とどこほらず。是養生の要術なり。身をつねに休め怠るべからず。我に相応せる事をつとめて、手足を働すべし。時に動き、時に静なれば、気めぐりて滞らず。静に過ぐればふさがる、動に過ぐれば疲る、動にも静にも、久しかるべからず。一華佗が言に、人の身は労動すべし。労動すれば穀気きえて、血脈流通すといへり。
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