養生訓 / 巻第一・総論上
一養生の術は、つとむべき事をよくつとめて、身をうごかし、氣をめぐらすをよしとす。つとむべき事をつとめずして、臥す事を好み、身をやすめおこたりて動かさゞるは、甚養生に害あり。久しく安坐し、身を動さゞれば、元氣めぐらず、食氣とゞこほりて病おこる。殊に臥す事を好み、ねぶり多きを忌む。食後には必ず數百步步行して、氣をめぐらし、食を消すべし。ねぶり臥すべからず。父母につかへて力をつくし、君につかへてまめやかにつとめ、朝は早くおき、夕はおそく寢ね、四民ともに我が家事をよくつとめておこたらず。士となれる人は、いとけなき時より、書をよみ、手を習ひ、禮樂をまなび、弓を射、馬にのり、武藝をならひて、身をうごかすべし。
新字:一養生の術は、つとむべき事をよくつとめて、身をうごかし、気をめぐらすをよしとす。つとむべき事をつとめずして、臥す事を好み、身をやすめおこたりて動かさゞるは、甚養生に害あり。久しく安坐し、身を動さゞれば、元気めぐらず、食気とゞこほりて病おこる。殊に臥す事を好み、ねぶり多きを忌む。食後には必ず数百歩歩行して、気をめぐらし、食を消すべし。ねぶり臥すべからず。父母につかへて力をつくし、君につかへてまめやかにつとめ、朝は早くおき、夕はおそく寝ね、四民ともに我が家事をよくつとめておこたらず。士となれる人は、いとけなき時より、書をよみ、手を習ひ、礼楽をまなび、弓を射、馬にのり、武芸をならひて、身をうごかすべし。
書き下し
一養生の術は、つとむべき事をよくつとめて、身をうごかし、気をめぐらすをよしとす。つとむべき事をつとめずして、臥す事を好み、身をやすめおこたりて動かさざるは、甚養生に害あり。久しく安坐し、身を動さざれば、元気めぐらず、食気とどこほりて病おこる。殊に臥す事を好み、ねぶり多きを忌む。食後には必ず数百歩歩行して、気をめぐらし、食を消すべし。ねぶり臥すべからず。父母につかへて力をつくし、君につかへてまめやかにつとめ、朝は早くおき、夕はおそく寝ね、四民ともに我が家事をよくつとめておこたらず。士となれる人は、いとけなき時より、書をよみ、手を習ひ、礼楽をまなび、弓を射、馬にのり、武芸をならひて、身をうごかすべし。
現代語訳
養生の術は、務めるべきことをよく務めて、体を動かし、気をめぐらせることをよしとします。務めるべきことを務めずに、横になることを好み、体を休め怠けて動かさないのは、はなはだ養生に害があります。長く座り込んで体を動かさなければ、元気がめぐらず、食べた物の気が滞って病が起こります。とくに横になることを好み、眠りが多いことを忌みます。食後には必ず数百歩歩いて気をめぐらし、食べた物をこなすべきです。眠り臥してはなりません。父母に仕えて力を尽くし、主君に仕えてまめやかに務め、朝は早く起き、夜は遅く寝て、士農工商ともに自分の家の仕事をよく務めて怠りません。武士となる人は、幼い時から書を読み、字を習い、礼楽を学び、弓を射、馬に乗り、武芸を習って、体を動かすべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『養生訓』巻第一・総論上一或人の曰、養生の術、隠居せし老人、又年わかくしても、世をのがれて安閑無事なる人は宜しかるべし。士として、君父につかへて忠孝をつとめ、武芸をならひて身をはたらかし、農工商の夜昼家業を勤めていとまなく、身閑ならざる者は、養生成りがたかるべし。かかる人、もし養生の術をもはら行はば、其身やはらかに、其わざゆるやかにして、事の用にたつべからずと云ふ。是養生の術を知らざる人のうたがひ、むべなるかな。養生の術は、安閑無事なるを専とせず、心を静にし身をうごかすをよしとす。身を安閑にするは、かへつて元気とどこほりふさがりて病を生ず。たとへば流水はくさらず、戸枢は朽ちざるが如し。是うごく者は長久なり、うごかざる物はかへつて命みじかし。是を以て四民ともに事をよくつとむべし。安逸なるべからず。是すなはち養生の術なり。
-
『養生訓』巻第一・総論上一凡養生の道は、内慾をこらふるを以て本とす。本をつとむれば、元気つよくして外邪おかさず。内慾を慎まずして、元気よわければ、外邪にやぶられ易くして、大病となりて命をたもたず。内慾をこらふるに、其の大なる条目は、飲食をよきほどにして過さず、脾胃をやぶり病を発する物をくらはず。色慾をつつしみて精気を惜み、時ならずして臥さず。久しく睡る事をいましめ、久しく安坐せず。時々身をうごかして、気をめぐらすべし。殊に食後には、必ず数百歩歩行すべし。若久しく安坐し、又食後に穏坐し、ひる寝ね、食気いまだ消化せざるに早く臥しねぶれば、滞りて病を生じ、久しきをつめば、元気発生せずしてよわくなる。常に元気をへらす事を惜みて、言語をすくなくし、七情をよきほどにし、七情の内にて、取わき、いかり、かなしみ、うれひ、思ひをすくなくすべし。
-
『養生訓』巻第一・総論上一身体は日々少しづつ労動すべし。久しく安坐すべからず。毎日飯後に、必ず庭圃の内数百足しづかに歩行すべし。雨中には室屋の内を幾度も徐行すべし。此くの如く日々朝晩運動すれば、鍼灸を用ひずして、飲食気血の滞なくして病なし。鍼灸をして、熱痛甚しき身の苦をこらへんより、かくの如くせば病なくして安楽なるべし。
-
『養生訓』巻第二・総論下一家に居て、時々わが体力の辛苦せざる程の労動をなすべし。吾が起居のいたづかはしきをくるしまず、室中の事奴婢をつかはずして、しばしばみづから起ちて、我が身を運用すべし。わが身を動用すれば、おもひのままにして、速に事調ひ、下部をつかふの心を労せず。是清心省事の益あり。かくの如くにして、常に身を労動すれば、気血めぐり、食気とどこほらず。是養生の要術なり。身をつねに休め怠るべからず。我に相応せる事をつとめて、手足を働すべし。時に動き、時に静なれば、気めぐりて滞らず。静に過ぐればふさがる、動に過ぐれば疲る、動にも静にも、久しかるべからず。一華佗が言に、人の身は労動すべし。労動すれば穀気きえて、血脈流通すといへり。
-
『養生訓』巻第二・総論下およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし歩行して、久しく一所に安坐せざれば、血気めぐりて滞らず。養生の要務なり。日々かくのごとくすべし。呂氏春秋に曰く、流水は腐らず、戸枢は螻まず、動けばなり、形気も亦然り。いふ意は、流水は腐らず、たまり水はくさる。から戸のぢくの下のくるるは虫くはず。此二のものは、つねに動く故わざはひなし。人の身も亦かくの如し。一所に久しく安坐してうごかざれば、飲食とどこほり、血気めぐらずして病を生ず。食後に臥すと、昼臥すと、尤禁ずべし。夜も飲食の消化せざる内に早く臥せば、気をふさぎ病を生ず。是養生の道において尤いむべし。
-
『養生訓』巻第二・総論下一凡朝は早くおきて、手と面を洗ひ、髪をゆひ、事をつとめ、食後にはまづ腹を多くなで下し、食気をめぐらすべし。また京門のあたりを、手の食指のかたはらにて、すぢかひにしばしば撫づべし。腰をなで下して後、下にて静かにうつべし。あらくすべからず。もし食気滞らば、面を仰ぎて三四度食毒の気を吐くべし。朝夕の食後に、久しく安坐すべからず、必ずねぶり臥すべからず。久しく坐し、睡り臥せば、気ふさがりて病となり、久しきをつめば命みじかし。食後に毎度歩行する事、三百歩すべし。をりをり五六町歩行するは、尤よし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る