養生訓 / 巻第三・飲食上
一飮食の人は、人これをいやしむ。其小を養つて大をわするゝがためなりと、孟子ののたまへるごとく、口腹の慾にひかれて、道理をわすれ、只飮み食ひ飽き滿たん事をこのみて、腹はり痛み、病となり、酒に醉ひて亂に及ぶは、むげにいやしむべし。
新字:一飲食の人は、人これをいやしむ。其小を養つて大をわするゝがためなりと、孟子ののたまへるごとく、口腹の慾にひかれて、道理をわすれ、只飲み食ひ飽き満たん事をこのみて、腹はり痛み、病となり、酒に酔ひて乱に及ぶは、むげにいやしむべし。
書き下し
一飲食の人は、人これをいやしむ。其小を養つて大をわするるがためなりと、孟子ののたまへるごとく、口腹の慾にひかれて、道理をわすれ、只飲み食ひ飽き満たん事をこのみて、腹はり痛み、病となり、酒に酔ひて乱に及ぶは、むげにいやしむべし。
現代語訳
飲食ばかりにふける人を、人は卑しみます。それは小さなものを養って大きなものを忘れるからだと孟子が言われたとおり、口や腹の欲に引かれて道理を忘れ、ただ飲み食いして飽き満ちることばかり好んで、腹が張って痛み、病となり、酒に酔って乱れに及ぶのは、ひどく卑しむべきことです。
解説
孟子告子上篇の「飲食之人、則人賤之矣。為其養小以失大也」を踏まえた条です。孟子は、体の小さな部分(口腹)を養って大きな部分(心)を失う人を卑しいとしました。益軒はこれを養生の場面に移し、口腹の欲に引かれて道理を忘れ、病を招き酒で乱れる姿を戒めます。食の欲を満たすことが悪いのではなく、それに心が支配されることが問題だという見方です。食べ過ぎや飲み過ぎで自分を見失わないことは、健康だけでなく人としての品位を守ることでもあります。
この章句が説くこと
欲孟子飲食品位心
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