養生訓 / 巻第三・飲食上
一飯はよく人をやしなひ、又よく人を害す、故に飯はことに多食すべからず。常に食して宜しき分量を定むべし。飯を多くくらへば、脾胃をやぶり、元氣をふさぐ。他の食の過ぎたるより、飯の過ぎたるは、消化しがたくして、大に害あり。客となりて、あるじ心を用ひてまうけたる品味を、箸を下さゞれば、主人の盛意を空しくするも快からずと思はば、飯を常の時より半減して、飣の品味を少しづつ食すべし。如此すれば、さい多けれど、食にやぶられず。飯を常の如く食して、又魚鳥などの飣數品多くくらはゞ、必ずやぶらる。飯後に、又茶菓子とて、餅餌などくらひ、或は後段とて、麪類など食すれば、飽滿して氣をふさぎ、食にやぶらる。是常の分量に過ぐればなり。茶菓子後段は、分外の食なり。少し食して可なり、過すべからず。もし食後に小食せんとおもはば、かねて飯を減ずべし。
新字:一飯はよく人をやしなひ、又よく人を害す、故に飯はことに多食すべからず。常に食して宜しき分量を定むべし。飯を多くくらへば、脾胃をやぶり、元気をふさぐ。他の食の過ぎたるより、飯の過ぎたるは、消化しがたくして、大に害あり。客となりて、あるじ心を用ひてまうけたる品味を、箸を下さゞれば、主人の盛意を空しくするも快からずと思はば、飯を常の時より半減して、飣の品味を少しづつ食すべし。如此すれば、さい多けれど、食にやぶられず。飯を常の如く食して、又魚鳥などの飣数品多くくらはゞ、必ずやぶらる。飯後に、又茶菓子とて、餅餌などくらひ、或は後段とて、麪類など食すれば、飽満して気をふさぎ、食にやぶらる。是常の分量に過ぐればなり。茶菓子後段は、分外の食なり。少し食して可なり、過すべからず。もし食後に小食せんとおもはば、かねて飯を減ずべし。
書き下し
一飯はよく人をやしなひ、又よく人を害す、故に飯はことに多食すべからず。常に食して宜しき分量を定むべし。飯を多くくらへば、脾胃をやぶり、元気をふさぐ。他の食の過ぎたるより、飯の過ぎたるは、消化しがたくして、大に害あり。客となりて、あるじ心を用ひてまうけたる品味を、箸を下さざれば、主人の盛意を空しくするも快からずと思はば、飯を常の時より半減して、飣の品味を少しづつ食すべし。如此すれば、さい多けれど、食にやぶられず。飯を常の如く食して、又魚鳥などの飣数品多くくらはば、必ずやぶらる。飯後に、又茶菓子とて、餅餌などくらひ、或は後段とて、麪類など食すれば、飽満して気をふさぎ、食にやぶらる。是常の分量に過ぐればなり。茶菓子後段は、分外の食なり。少し食して可なり、過すべからず。もし食後に小食せんとおもはば、かねて飯を減ずべし。
現代語訳
飯はよく人を養い、またよく人を害します。ですから飯はとくに多く食べてはいけません。いつも食べてちょうどよい分量を定めておきなさい。飯を多く食べれば、脾胃を損ない、元気をふさぎます。他の食べ物の食べ過ぎよりも、飯の食べ過ぎのほうが消化しにくく、大いに害があります。客となって、主人が心を尽くして用意した料理に箸をつけなければ、主人の厚意を無にするのも心苦しいと思うなら、飯をいつもより半分に減らして、おかずの品々を少しずつ食べなさい。こうすれば、おかずが多くても食べ過ぎで損なわれません。飯をいつものように食べて、さらに魚や鳥などのおかずを何品も多く食べれば、必ず損なわれます。食後に、さらに茶菓子として餅や団子などを食べ、あるいは後段として麺類などを食べれば、満腹して気をふさぎ、食べ過ぎで損なわれます。これはいつもの分量を越えるからです。茶菓子や後段は分外の食です。少し食べるのはよいが、過ごしてはいけません。もし食後に軽く食べようと思うなら、前もって飯を減らしなさい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第三・飲食上一俗のことばに、食をひかへ過せば、養たらずして痩せ衰ふと云ふ。是養生不知人の言なり。欲多きは人のうまれつきなれば、ひかへ過すと思ふが、よき程なるべし。一すける物にあひ、飢ゑたる時にあたり、味すぐれて珍美なる食にあひ、其品おほく前につらなるとも、よきほどのかぎりの外はかたく慎みて、其節にすぐすべからず。一飲み食ふものにむかへば、むさぼりの心すすみて、多きにすぐる事をおぼえざるは、つねの人のならひなり。酒食茶湯ともに、よきほどと思ふよりも、ひかへて七八分にて、猶も不足と思ふ時、早く止むべし。飲食して後には、必ず十分に満つるものなり。食する時十分と思へば、必ずあき満ちて、分に過ぎて病となる。
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『養生訓』巻第三・飲食上一飯はよく熟して、中心まで和かなるべし。こはく粘きを忌む。煖なるに宜し。羹は熱きに宜し。酒は夏月も温なるべし。冷飲は脾胃をやぶる。冬月も熱飲すべからず。気を上せ血液をへらす。一飯を炊ぐに法多し。たきぼしは壮実なる人に宜し。饙は、積聚気滞ある人に宜し。湯取飯は、脾胃虚弱の人に宜し。粘りて糊の如くなるは滞塞す。硬きは消化し難し、新穀の飯は性つよくして虚人はあしし。殊に早稲は気を動かす、病人に忌む。晩稲は性かろくしてよし。
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『養生訓』巻第三・飲食上一一切の煑たる者、よく熟して柔なるを食ふべし。こはき物、未熟物、煑過して飪を失へる物、心口にかなはざる物、食ふべからず。一我が家にては、飲食の節慎みやすし。他の饗席にありては、烹調生熟の節、我が心にかなはず、飣品多く過ぎやすし。客となりては、殊に飲食の節つつしむべし。一飯後に、力わざをすべからず、急に道を行くべからず。又馬を馳せ、高きにのぼり、嶮路に上るべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一うゑて食し、かわきて飲むに、飢渇にまかせて、一時に多く飲食すれば、飽満して脾胃をやぶり、元気をそこなふ。飢渇の時慎むべし。又飲食いまだ消化せざるに、又いやかさねに早く飲食すれば、滞りて害となる。よく消化して後、飲食を好む時、飲み食ふべし。如此すれば、飲食皆養となる。
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『養生訓』巻第三・飲食上一飲食の内、飯は飽かざれば飢を助けず。あつものは飯を和せんためなり。肉はあかずしても不足なし。少し食つて食をすすめ、気を養ふべし。菜は穀肉の足らざるを助けて、消化しやすし。皆其食すべき理あり。然れ共多かるべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上晩食に飣の数多きは宜しからず。飣多く食ふべからず。魚鳥などの味の濃くあぶら有りて重き物、夕食にあしし。菜類も、薯蕷、胡蘿蔔、菘菜、芋根、慈姑などの如き、滞りやすく、気をふさぐ物、晩食に多く食ふべからず。食はざるは尤よし。一飯のすえり、魚のあざれ、肉のやぶれたる、色のあしき物、臭のあしき物、にえばなをうしなへる物くらはず。朝夕の食時にあらずんば、くらふべからず。又早くしていまだ熟せず、或はいまだ生ぜざる物、根を掘りとりて、芽だちをくらふの類、又時過ぎてさかりを失へる物、皆時ならざる物なり。くらふべからず。是論語にのする所、聖人の食し給はざる物なり。聖人身を慎み給ふ養生の一事なり、法とすべし。又肉は多けれども、飯の気に勝たしめずといへり。肉を多く食ふべからず。食は飯を本とす。何の食も飯より多かるべからず。
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