養生訓 / 巻第三・飲食上
一人生日々に飮食せざる事なし、常につゝしみて慾をこらへざれば、過ぎ易くして病を生ず。古人、禍は口より出で、病は口より入るといへり。口の出し入れ常に愼むべし。一論語鄕黨篇に記せし聖人の飮食の法、是養生の要なり。聖人の疾を愼み給ふ事かくの如し。法とすべし。
新字:一人生日々に飲食せざる事なし、常につゝしみて慾をこらへざれば、過ぎ易くして病を生ず。古人、禍は口より出で、病は口より入るといへり。口の出し入れ常に慎むべし。一論語郷党篇に記せし聖人の飲食の法、是養生の要なり。聖人の疾を慎み給ふ事かくの如し。法とすべし。
書き下し
一人生日々に飲食せざる事なし、常につつしみて慾をこらへざれば、過ぎ易くして病を生ず。古人、禍は口より出で、病は口より入るといへり。口の出し入れ常に慎むべし。一論語郷党篇に記せし聖人の飲食の法、是養生の要なり。聖人の疾を慎み給ふ事かくの如し。法とすべし。
現代語訳
人は生きていて日々飲食しない日はありません。常に慎んで欲をこらえなければ、食べ過ぎやすく病を生じます。昔の人は「禍は口から出て、病は口から入る」と言いました。口から出すもの入れるものを常に慎みなさい。論語の郷党篇に記された聖人(孔子)の飲食の法は、養生の要です。聖人が病を慎まれたことはこのようでした。手本としなさい。
解説
「禍は口より出で、病は口より入る」は古くから伝わる格言で、言葉を慎めば禍を避け、食を慎めば病を避けるという二つの戒めを一句にまとめています。益軒は、毎日食べるからこそ油断しやすいと言い、口の出し入れを常に慎めと説きます。後半で挙げる論語郷党篇には、孔子が傷んだ物や時期外れの物を食べず、肉を飯より多く食べなかったといった食の作法が記されています。聖人の暮らしぶりを養生の手本とする点に、儒者益軒の姿勢がよく表れています。
この章句が説くこと
養生飲食口論語慎み
関連する章句
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『大和俗訓』巻之五・言語一古語に、病は口より入り、禍は口より出づといへり。言をつつしみて、みだりに口より出さざれば、災なし。飲食をつつしみて、みだりに口に入れざれば、病なし。病と災との出くることは、天より降るにあらず、皆口よりおこると、古人いへり。口の出入つつしむべし。
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言志四録・言志録 第百八十九条 禍は口より出で病は口より入る人は最も当に口を慎むべし。口の職は二用を兼ぬ。言語を出だし、飲食を納るる、是れなり。言語を慎まざれば、以て禍を速くに足る。飲食を慎まざれば、以て病を致すに足る。諺に云ふ、「禍は口より出で、病は口より入る」と。
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『養生訓』巻第三・飲食上一飲食の人は、人これをいやしむ。其小を養つて大をわするるがためなりと、孟子ののたまへるごとく、口腹の慾にひかれて、道理をわすれ、只飲み食ひ飽き満たん事をこのみて、腹はり痛み、病となり、酒に酔ひて乱に及ぶは、むげにいやしむべし。
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『初学訓』巻之三一言を謹めば禍なし。飲み食ふことをつつしめば病なし。故に、古語曰、病は口より入り、禍は口より出づ。一同官同列の人は、私意の争なく、人我の隔なくして、和睦し相愛すべし。是亦、朋友の道にて、君のためなり。家の乱は、多くは臣下の争より起る。凡、われ一人を立てんとし、わが才を専に立てんとすれば、必ず同列を妨ぐるゆゑ、かへつてわが身の禍となる。又、同芸の人にも相争ふべからず、そしるべからず。同列をそしり同芸をそしるは、これ小人のわざなり。才能善行は、相たすけて進むべし。不能あらば誹るべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上晩食に飣の数多きは宜しからず。飣多く食ふべからず。魚鳥などの味の濃くあぶら有りて重き物、夕食にあしし。菜類も、薯蕷、胡蘿蔔、菘菜、芋根、慈姑などの如き、滞りやすく、気をふさぐ物、晩食に多く食ふべからず。食はざるは尤よし。一飯のすえり、魚のあざれ、肉のやぶれたる、色のあしき物、臭のあしき物、にえばなをうしなへる物くらはず。朝夕の食時にあらずんば、くらふべからず。又早くしていまだ熟せず、或はいまだ生ぜざる物、根を掘りとりて、芽だちをくらふの類、又時過ぎてさかりを失へる物、皆時ならざる物なり。くらふべからず。是論語にのする所、聖人の食し給はざる物なり。聖人身を慎み給ふ養生の一事なり、法とすべし。又肉は多けれども、飯の気に勝たしめずといへり。肉を多く食ふべからず。食は飯を本とす。何の食も飯より多かるべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一脾胃虚弱の人、殊に老人は、飲食にやぶられやすし。味よき飲食にむかはば忍ぶべし。節に過ぐべからず。心よわきは慾に勝ちがたし。心つよくして慾にかつべし。一交友と同じく食する時、美饌にむかへば食ひ過ぎやすし。飲食十分に満足するは、禍の基なり。花は半開に見、酒は微酔に飲むといへるが如くすべし。興に乗じて戒を忘るべからず。欲を恣にすれば禍となる。楽の極まれるは悲の基なり。
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