養生訓 / 巻第二・総論下
一ひとり家に居て、閑に日を送り、古書をよみ、古人の詩歌を吟じ、香をたき、古法帖を玩び、山水をのぞみ、月花をめで、草木を愛し、四時の好景を玩び、酒を微醉に飮み、園菜を煑るも、皆是心を樂ましめ、氣を養ふ助なり。貧賤の人も、此の樂つねに得やすし。もし能くこの樂を知らば、富貴にして樂を知らざる人にまさるべし。
新字:一ひとり家に居て、閑に日を送り、古書をよみ、古人の詩歌を吟じ、香をたき、古法帖を玩び、山水をのぞみ、月花をめで、草木を愛し、四時の好景を玩び、酒を微酔に飲み、園菜を煑るも、皆是心を楽ましめ、気を養ふ助なり。貧賤の人も、此の楽つねに得やすし。もし能くこの楽を知らば、富貴にして楽を知らざる人にまさるべし。
書き下し
一ひとり家に居て、閑に日を送り、古書をよみ、古人の詩歌を吟じ、香をたき、古法帖を玩び、山水をのぞみ、月花をめで、草木を愛し、四時の好景を玩び、酒を微酔に飲み、園菜を煑るも、皆是心を楽ましめ、気を養ふ助なり。貧賤の人も、此の楽つねに得やすし。もし能くこの楽を知らば、富貴にして楽を知らざる人にまさるべし。
現代語訳
一人家にいて静かに日を送り、古い書を読み、古人の詩歌を吟じ、香をたき、古い法帖を鑑賞し、山水を眺め、月や花を愛で、草木を愛し、四季のよい景色を味わい、酒をほろ酔いに飲み、畑の野菜を煮るのも、みな心を楽しませ気を養う助けとなります。貧しく身分の低い人でも、この楽しみはいつでも得やすいものです。もしよくこの楽しみを知るなら、富貴でも楽しみを知らない人にまさるでしょう。
解説
読書、詩歌、香、書の手本、山水、月花、草木、ほろ酔い、畑の野菜と、独り居の楽しみを数え上げ、それが気を養う助けになると説いています。どれもお金をかけずに得られる楽しみで、益軒は貧しい人でも富貴な人にまさる、と言い切ります。晩年の益軒は妻の東軒とともに穏やかな暮らしを楽しんだことで知られます。一人の時間を寂しさではなく豊かさとして過ごす工夫は、孤独が問題になる現代の暮らしにもそのまま生かせるでしょう。
この章句が説くこと
楽しみ読書独り居気心
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・心に城池有り、口に門戶有り心は城池有るを要し、口は門戶有るを要す。城池有れば則ち出でず、門戶有れば則ち縱にせず。
-
『呻吟語』外篇・天地・心は就ち是れ天なり心は就ち是れ天なり。心を欺くは便ち是れ天を欺くなり。心に事ふるは便ち是れ天に事ふるなり。更に須らく蒼蒼の上面に向かひて討むべからず。
-
『呻吟語』内篇・修身・心を大にし虛にし平にし潛め定む其の心を大にして天下の物を容れ、其の心を虛にして天下の善を受け、其の心を平にして天下の事を論じ、其の心を潛めて天下の理を觀、其の心を定めて天下の變に應ず。
-
『正法眼蔵随聞記』巻一示して云く、人は思ひ切て命をも棄て、身肉手足をも截ことは中々せくるゝなり、然あれば世間の事を思ふに、名利執心の為にも多くかくの如く思ひ切るなり、只依り来る時に、事に触れ物に随て、心品を調ふること難きなり、学者身命を捨ると思ふて、且くおしゝづめて、云ふべきことをも、修すべきことをも、道理に順ずるか順せざるかと案じて、道理に順せば云ひ、若くは行じもすべきなり、
-
『呻吟語』内篇・存心・心は天平のごとくならんことを要す心は天平のごとくならんことを要す。物を稱る時、物は忙しくして衡は忙しからず。物去る時、即ち懸空して此に在り。只だ恁く靜虛中正なれば、何等ぞ自在ならん。
-
『呻吟語』外篇・人情・心は二三を怕れ、情は一を怕る心は二三を怕れ、情は一を怕る。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る