養生訓 / 巻第二・総論下
一心を平かにし、氣を和かにし、言をすくなくし、しづかにす。是德を養ひ、身をやしなふ、其道一なり。多言なると、心さわがしく氣あらきとは、德をそこなひ、身をそこなふ、其害一なり。一山中の人は、多くはいのちながし。古書にも、山氣は壽多しと云ひ、又寒氣は壽しともいへり。山中は寒くして、人身の元氣をとぢかためて、内に保ちてもらさず、故に命ながし。暖なる地は、元氣もれて内にたもつ事すくなくして、命みじかし。又山中の人は、人のまじはりすくなく、しづかにして元氣をへらさず、萬ともしく、不自由なる故、おのづから慾すくなし。殊に魚類まれにして、肉に飽かず。是山中の人命ながき故なり。市中にありて、人に多くまじはり事しげければ、氣へる。海邊の人、魚肉をつねに多くくらふゆゑ、病おほくして、命みじかし。市中に居り、海邊に居て慾をすくなくし、肉食をすくなくせば、害なかるべし。
新字:一心を平かにし、気を和かにし、言をすくなくし、しづかにす。是徳を養ひ、身をやしなふ、其道一なり。多言なると、心さわがしく気あらきとは、徳をそこなひ、身をそこなふ、其害一なり。一山中の人は、多くはいのちながし。古書にも、山気は寿多しと云ひ、又寒気は寿しともいへり。山中は寒くして、人身の元気をとぢかためて、内に保ちてもらさず、故に命ながし。暖なる地は、元気もれて内にたもつ事すくなくして、命みじかし。又山中の人は、人のまじはりすくなく、しづかにして元気をへらさず、万ともしく、不自由なる故、おのづから慾すくなし。殊に魚類まれにして、肉に飽かず。是山中の人命ながき故なり。市中にありて、人に多くまじはり事しげければ、気へる。海辺の人、魚肉をつねに多くくらふゆゑ、病おほくして、命みじかし。市中に居り、海辺に居て慾をすくなくし、肉食をすくなくせば、害なかるべし。
書き下し
一心を平かにし、気を和かにし、言をすくなくし、しづかにす。是徳を養ひ、身をやしなふ、其道一なり。多言なると、心さわがしく気あらきとは、徳をそこなひ、身をそこなふ、其害一なり。一山中の人は、多くはいのちながし。古書にも、山気は寿多しと云ひ、又寒気は寿しともいへり。山中は寒くして、人身の元気をとぢかためて、内に保ちてもらさず、故に命ながし。暖なる地は、元気もれて内にたもつ事すくなくして、命みじかし。又山中の人は、人のまじはりすくなく、しづかにして元気をへらさず、万ともしく、不自由なる故、おのづから慾すくなし。殊に魚類まれにして、肉に飽かず。是山中の人命ながき故なり。市中にありて、人に多くまじはり事しげければ、気へる。海辺の人、魚肉をつねに多くくらふゆゑ、病おほくして、命みじかし。市中に居り、海辺に居て慾をすくなくし、肉食をすくなくせば、害なかるべし。
現代語訳
心を平らかにし、気を和らげ、言葉を少なくし、静かにする。これは徳を養い、体を養うものであり、その道は一つです。口数が多いことと、心が騒がしく気が荒いことは、徳を損ない、体を損なうもので、その害も一つです。山の中の人は、多くは命が長いものです。古い書にも、山の気は長寿が多いといい、また寒い気は長寿であるともいっています。山の中は寒いので、人の体の元気を閉じ固めて内に保って漏らさず、そのため命が長いのです。暖かい土地では元気が漏れて内に保つことが少なく、命が短くなります。また山の中の人は人との交わりが少なく、静かで元気を減らさず、何事にも乏しく不自由なので、自然と欲が少ないのです。とりわけ魚が稀で、肉に飽きることがありません。これが山の中の人が長命な理由です。町の中にいて人と多く交わり、用事が多ければ気が減ります。海辺の人は魚肉をいつも多く食べるので、病が多くて命が短いのです。町に住み海辺に住んでいても、欲を少なくし肉食を少なくすれば、害はないでしょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第二・総論下一養生の道、多くいふ事を用ひず。只飲食をすくなくし、病をたすくる物を食はず、色慾をつつしみ、精気ををしみ、怒哀憂思を過さず、心を平らかにして気を和け、言をすくなくし、無用の事をはぶき、風寒暑湿の外邪をふせぎ、又時々身を動かし、歩行し、時ならずしてねぶり臥す事なく、食気をめぐらすべし。是養生の要なり。
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『養生訓』巻第二・総論下一長生の術は、食色の慾をすくなくし、心気を和平にし、事に臨んで常に畏慎あれば、物にやぶられず、血気おのづから調ひて、自然に病なし。如此なれば長生す。是長生の術なり。此術を信じ用ひば、此術の貴ぶべき事、あだかも万金を得たるよりも重かるべし。
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『養生訓』巻第二・総論下一心はつねに従容と静かにせはしからず、和平なるべし。言語は殊に静かにしてすくなくし、無用の事いふべからず。是尤気を養ふ良法なり。一人の身は、気を以て生の源、命の主とす。故に養生をよくする人は、常に元気を惜みてへらさず、静にしては元気をたもち、動きては元気をめぐらす。たもつとめぐらすと二の者そなはらざれば、気を養ひがたし。動静其時を失はず、是気を養ふの道なり。一もし大風雨と雷甚しくば、天の威をおそれて、夜といへども必ず起き、衣服をあらためて坐すべし、臥すべからず。
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『初学訓』巻之五一養生の道も、亦よく謹みて、慾を堪ふるにあり。養生の要は、飲食色慾をこらへて過さず、心を和け気を平らかにし、かなしみ、いかり、うれへ、思ひを過さず、又風寒暑湿の外邪を防ぐべし。飲食色慾は内慾なり。風寒暑湿は外邪なり。つよき人も、内慾を過し、外邪に傷らるれば、病に冒されて、長生を得がたし。又、生れつきよわけれど、よく保養すれば、天年をたもちて長寿なり。わかき時より、早く養生をつとむべし。わかく血気さかんなれば、飲食色慾恣なり。いましむべし。飲食色慾を恣にすれば、元気つきて短命なり。中年以後は、色慾より、飲食の慾尤こらへ難し。内慾にやぶられて元気減れば、外邪も侵しやすく、病起りやすし。人の天年を保たずして、早く死ぬるは、多くは、飲食色慾の二に傷らるればなり。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、先心気を養ふべし。心を和かにし、気を平かにし、いかりと慾とをおさへ、うれひ思ひをすくなくし、心をくるしめず、気をそこなはず、是心気を養ふ要道なり。又臥す事を好むべからず。久しく睡り臥せば気滞りてめぐらず。飲食いまだ消化せざるに早く臥し睡れば、食気ふさがりて甚元気をそこなふ。いましむべし。酒は微酔に飲み、半酣をかぎりとすべし。食は半飽に食ひて、十分に満つべからず。酒食ともに限を定めて、節にこゆべからず。又わかき時より、色慾をつつしみ、精気を惜むべし。精気を多くつひやせば、下部の気よわくなり、元気の根本たえて、必ず命短し。もし飲食色慾の慎なくば、日々補薬を服し、朝夕食補をなすとも、益なかるべし。
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『養生訓』巻第八・養老一老人の保養は、常に元気を惜みてへらすべからず。気息を静にして、あらくすべからず。言語をゆるやかにして早くせず、言すくなくし、起居行歩をもしづかにすべし。言語あららかに、口はやく声高く、颺言すべからず。怒なくうれひなく、過ぎ去りたる人の過をとかむべからず、我が過をしきりに悔ゆべからず、人の無礼なる横逆をいかりうらむべからず。是皆、老人養生の道なり。又老人の徳行のつつしみなり。
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