養生訓 / 巻第一・総論上
一氣は一身體の内にあまねく行きわたるべし。むねの中一所にあつむべからず。いかり、かなしみ、うれひ、思ひあれば胸中一所に氣とゞこほりて集る。七情の過ぎて滯るは、病の生ずる基なり。一俗人は慾をほしいまゝにして禮義にそむき、氣を養はずして天年をたもたず。理氣二ながら失へり。仙術の士は養氣に偏にして道理を好まず。故に禮義をすててつとめず。陋儒は理に偏にして氣を養はず。修養の道を知らずして天年をたもたず。此の三はともに君子の行ふ道にあらず。
新字:一気は一身体の内にあまねく行きわたるべし。むねの中一所にあつむべからず。いかり、かなしみ、うれひ、思ひあれば胸中一所に気とゞこほりて集る。七情の過ぎて滞るは、病の生ずる基なり。一俗人は慾をほしいまゝにして礼義にそむき、気を養はずして天年をたもたず。理気二ながら失へり。仙術の士は養気に偏にして道理を好まず。故に礼義をすててつとめず。陋儒は理に偏にして気を養はず。修養の道を知らずして天年をたもたず。此の三はともに君子の行ふ道にあらず。
書き下し
一気は一身体の内にあまねく行きわたるべし。むねの中一所にあつむべからず。いかり、かなしみ、うれひ、思ひあれば胸中一所に気とどこほりて集る。七情の過ぎて滞るは、病の生ずる基なり。一俗人は慾をほしいままにして礼義にそむき、気を養はずして天年をたもたず。理気二ながら失へり。仙術の士は養気に偏にして道理を好まず。故に礼義をすててつとめず。陋儒は理に偏にして気を養はず。修養の道を知らずして天年をたもたず。此の三はともに君子の行ふ道にあらず。
現代語訳
気は体の内にあまねく行きわたらせるべきです。胸の中の一か所に集めてはなりません。怒り・悲しみ・憂い・思い煩いがあると、胸の中の一か所に気が滞って集まります。七情が過ぎて滞るのは、病の生じる基です。俗人は欲をほしいままにして礼義にそむき、気を養わずに天寿を保ちません。理と気の二つともに失っています。仙術の士は気を養うことに偏って道理を好みません。ですから礼義を捨てて務めません。視野の狭い儒者は理に偏って気を養いません。修養の道を知らずに天寿を保ちません。この三つはともに君子の行う道ではありません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『慎思録』巻之五人の行を制する、苟も理に当たらば、則ち須らく自ら信ずべし。他人の誹議に由りて、憂戚を為し疑惑を生ずべからず。逸詩に云ふ、礼義愆たずんば、何ぞ人言を恤へん、と。若し夫れ小人の忌憚無き者は、之に居りて疑はず、世議有りと雖も省みず。所謂人言憂ふるに足らずとは、小人の自ら是とするなり。私欲の昏蔽に因りて、其の不善を知ること能はざるなり。是れ君子の自信と、日を同じくして語るべからず。
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『慎思録』巻之三愛悪の二者は、人情の大端なり。愛悪正しければ、則ち道行はる。其の偏愛偏悪有る者は、是れ私意の発する所にして、心の正しからずして、道の行はれざる所以なり。衆人の愛悪は、多く私意に出づ。故に愛すべからざるを愛するは、私昵に因るなり。悪むべからざるを悪むは、私怨に因るなり。道の行はれざる所以なり。夫れ愛悪正しくして理に当たる者を君子と為し、愛悪正しからずして理に背く者を小人と為す。身の修まると否と、家の斉ふと否と、世の治と乱と、皆愛悪の偏正に繋かるのみ。愛悪を正すの義、大なるかな。
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『呻吟語』外篇・品藻・惟だ其の理のみ勢の為す可からずして猶ほ之を為す者有るは、惟だ其の理のみ。此を知らば則ち三仁は五臣と事功を比す可く、孔子は堯・舜と政治を較ぶ可し。
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『呻吟語』内篇・談道・理一にして氣・勢・利は三なり先天は、理のみ。後天は、氣のみ。天下は、勢のみ。人情は、利のみ。理は一にして、氣・勢・利は三なり。勝負知る可し。
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『呻吟語』内篇・應務・理を貶せず、又た人を駭かさず君子の事に處するに真見有るも、遽かに行はざるなり。又た眾見を驗し、眾情を察し、諸を理に協へて協ひ、諸を眾情・眾見に協へて協へば、則ち斷じて以て必ず行ふ。果たして理は當然にして、眾情・眾見の協はざるや、又た委曲して以て吾が理を行ふ。既に理を貶せず、又た人を駭かさず。此れを之れ理術と謂ふ。噫、惟だ聖人のみ之を能くす。獵較の類是れなり。
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『呻吟語』内篇・談道・勢は帝王の權、理は聖人の權公卿朝に爭議するに、天子に命有りと曰へば、則ち屏然として敢へて屈直せず。師儒學に相辯ずるに、孔子に言有りと曰へば、則ち寂然として敢へて異同せず。故に天地の間、惟だ理と勢とを最尊と為す。然りと雖も、理は又尊の尊なり。廟堂の上に理を言へば、則ち天子も勢を以て相奪ふを得ず。即し相奪ふとも、理は則ち常に天下萬世に伸ぶ。故に勢は、帝王の權なり。理は、聖人の權なり。帝王に聖人の理無くんば、則ち其の權時有りて屈す。然らば則ち理なる者は、又勢の恃みて以て存亡を為す所なり。莫大の權を以て僭竊の禁無し。此れ儒者の辭せずして敢へて斯道の南面に任ずる所以なり。
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