養生訓 / 巻第一・総論上
農工商は、各其家のことわざをおこたらずして、朝夕よくつとむべし。婦女はことに内に居て氣欝滯しやすく、病生じやすければ、わざをつとめて身を勞動すべし。富貴の女おや、しうと、夫によくつかへてやしなひ、織縫績紡、食品をよく調ふるを以て職分として、子をよく育て、つねに安坐すべからず。かけまくもかたじけなき天照皇大神も、みづから神の御服を織らせたまひ、其御妹稚日女尊も、齋機殿にましまして、神の御服をおらせ給ふ事、日本紀に見えたれば、今の婦女も皆かゝる女のわざをつとむべき事にこそ侍れ。四民ともに家業をよくつとむるは、皆是養生の道なり。つとむべき事をつとめず、久しく安坐し、ねぶり臥す事をこのむ、是大に養生に害あり。かくの如くなれば、病おほくして短命なり。戒むべし。
新字:農工商は、各其家のことわざをおこたらずして、朝夕よくつとむべし。婦女はことに内に居て気欝滞しやすく、病生じやすければ、わざをつとめて身を労動すべし。富貴の女おや、しうと、夫によくつかへてやしなひ、織縫績紡、食品をよく調ふるを以て職分として、子をよく育て、つねに安坐すべからず。かけまくもかたじけなき天照皇大神も、みづから神の御服を織らせたまひ、其御妹稚日女尊も、斎機殿にましまして、神の御服をおらせ給ふ事、日本紀に見えたれば、今の婦女も皆かゝる女のわざをつとむべき事にこそ侍れ。四民ともに家業をよくつとむるは、皆是養生の道なり。つとむべき事をつとめず、久しく安坐し、ねぶり臥す事をこのむ、是大に養生に害あり。かくの如くなれば、病おほくして短命なり。戒むべし。
書き下し
農工商は、各其家のことわざをおこたらずして、朝夕よくつとむべし。婦女はことに内に居て気欝滞しやすく、病生じやすければ、わざをつとめて身を労動すべし。富貴の女おや、しうと、夫によくつかへてやしなひ、織縫績紡、食品をよく調ふるを以て職分として、子をよく育て、つねに安坐すべからず。かけまくもかたじけなき天照皇大神も、みづから神の御服を織らせたまひ、其御妹稚日女尊も、斎機殿にましまして、神の御服をおらせ給ふ事、日本紀に見えたれば、今の婦女も皆かかる女のわざをつとむべき事にこそ侍れ。四民ともに家業をよくつとむるは、皆是養生の道なり。つとむべき事をつとめず、久しく安坐し、ねぶり臥す事をこのむ、是大に養生に害あり。かくの如くなれば、病おほくして短命なり。戒むべし。
現代語訳
農工商の人は、それぞれ自分の家の生業を怠らずに、朝夕よく務めるべきです。婦女はとくに家の内にいて気が鬱滞しやすく、病が生じやすいので、仕事に励んで体を働かせるべきです。富貴な家の女性も、親や舅姑、夫によく仕えて養い、機織りや縫い物、糸つむぎ、食事をよく調えることを職分として、子をよく育て、常に座り込んでいてはなりません。恐れ多くも天照大神も、みずから神の御衣を織らせなさり、その御妹の稚日女尊も斎機殿にいらして神の御衣をお織りになったことが『日本書紀』に見えるので、今の婦女もみなこうした女性の仕事に励むべきことでございます。士農工商ともに家業をよく務めることは、みな養生の道です。務めるべきことを務めず、長く座り込み、眠り臥すことを好むのは、大いに養生に害があります。このようであれば病が多くて短命です。戒めるべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法かかる人は、婦人の職分を失ひ、後の幸なし。慎むべし。一いにしへ天子より以下、男は外を治め、女は内を治む。王后以下、皆内政を勤め行ひて、婦人の職分あり。今の世のならひ、富貴の家の婦女は、内を治むるつとめうとく、織縫の業におろそかなり。いにしへ我が日の本にては、かけまくもかしこき天照大神自ら神衣を織りたまひ、斎服殿にましましける。其御妹稚日女尊も亦しかり。是日本紀に記せり。もろこしにて、王后みづから玄紞を織り給ふ。公侯の夫人、位貴しといへども、皆自らきぬをおれり。今の士大夫の妻、安逸にほこりて女功を勤めざるは、古法にはあらず。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、つとむべき事をよくつとめて、身をうごかし、気をめぐらすをよしとす。つとむべき事をつとめずして、臥す事を好み、身をやすめおこたりて動かさざるは、甚養生に害あり。久しく安坐し、身を動さざれば、元気めぐらず、食気とどこほりて病おこる。殊に臥す事を好み、ねぶり多きを忌む。食後には必ず数百歩歩行して、気をめぐらし、食を消すべし。ねぶり臥すべからず。父母につかへて力をつくし、君につかへてまめやかにつとめ、朝は早くおき、夕はおそく寝ね、四民ともに我が家事をよくつとめておこたらず。士となれる人は、いとけなき時より、書をよみ、手を習ひ、礼楽をまなび、弓を射、馬にのり、武芸をならひて、身をうごかすべし。
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『養生訓』巻第二・総論下一家に居て、時々わが体力の辛苦せざる程の労動をなすべし。吾が起居のいたづかはしきをくるしまず、室中の事奴婢をつかはずして、しばしばみづから起ちて、我が身を運用すべし。わが身を動用すれば、おもひのままにして、速に事調ひ、下部をつかふの心を労せず。是清心省事の益あり。かくの如くにして、常に身を労動すれば、気血めぐり、食気とどこほらず。是養生の要術なり。身をつねに休め怠るべからず。我に相応せる事をつとめて、手足を働すべし。時に動き、時に静なれば、気めぐりて滞らず。静に過ぐればふさがる、動に過ぐれば疲る、動にも静にも、久しかるべからず。一華佗が言に、人の身は労動すべし。労動すれば穀気きえて、血脈流通すといへり。
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『養生訓』巻第一・総論上一或人の曰、養生の術、隠居せし老人、又年わかくしても、世をのがれて安閑無事なる人は宜しかるべし。士として、君父につかへて忠孝をつとめ、武芸をならひて身をはたらかし、農工商の夜昼家業を勤めていとまなく、身閑ならざる者は、養生成りがたかるべし。かかる人、もし養生の術をもはら行はば、其身やはらかに、其わざゆるやかにして、事の用にたつべからずと云ふ。是養生の術を知らざる人のうたがひ、むべなるかな。養生の術は、安閑無事なるを専とせず、心を静にし身をうごかすをよしとす。身を安閑にするは、かへつて元気とどこほりふさがりて病を生ず。たとへば流水はくさらず、戸枢は朽ちざるが如し。是うごく者は長久なり、うごかざる物はかへつて命みじかし。是を以て四民ともに事をよくつとむべし。安逸なるべからず。是すなはち養生の術なり。
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『大和俗訓』巻之六・躬行上一凡人のつとめ行ふべきわざ、三あり。願ふ所も、また三有り。一には務業。二には養生。三には行義なり。務業とは、四民ともに、其家のわざを務むるなり。士は君につかへ、農工商は各其家業をつとめて、其衣食を求むるを云ふ。家業をつとめざれば、飢寒貧窮をまぬかれず。是諸民の先つとむべき事にて、財禄あらん事をねがふ所なり。業を務むれば、衣食と居処を得て、身をやしなふ生計は、其内にあり。二には養生は、飲食色慾七情の内、欲をうすくし、起居動静の形気をつつしみ、風寒暑湿の外邪をふせぎ、生命を養ひて、病なく、長寿を得んことをねがふを云ふ。生を養はざれば、必病生じて、身をくるしめ、又むまれつきたる天年をたもちがたし。是又人のよく務むべきことなり。
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『家道訓』巻之一・総論上一わが身朝夕飲食の俸養はかろくして、身をば労動すべし。奢りて酒食の美をこのみ、怠りて身を安逸にすべからず。おごらず怠らず、かくの如くすれば、第一徳を養ひ、次に身を養ひ、次に財をやしなふ、三の益あり。飲食淡薄にして身を労動すれば、食気滞らず、気血めぐり、脾胃やぶれずして生を養ふによろし。又身を労すれば、艱難労苦にたへて、忠孝の行、学問芸術を習ふにつとめよし。もし身体を労動せずして安逸にならへば、艱難に不堪して、忠孝のつとめをくるしみ、学問技芸におこたり、殊に士は武勇のたしなみなく、軍陣にて艱苦にたへず、病おこり身よわりて用にたたず、武勇をはげみがたし。およそ心は安静にし、身は労動せしむべし。
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