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大和俗訓 / 巻之八・応接

一世に居るには、人情を知り、時變を考へて、天命に安ずべし。或老人のいへるは、年の積に、世の中のありさまを、とかく思ひ知り行くまゝに、わが生める子、わが祿をあたふる奴だに、わが心のまゝになりがたし。況や世の人の心、さまざまに變れば、わが思ふまゝに從ひがたし。畢竟たゞわが身を修めて、人を責めざるべし。是世にをるの道なり。

新字:一世に居るには、人情を知り、時変を考へて、天命に安ずべし。或老人のいへるは、年の積に、世の中のありさまを、とかく思ひ知り行くまゝに、わが生める子、わが禄をあたふる奴だに、わが心のまゝになりがたし。況や世の人の心、さまざまに変れば、わが思ふまゝに従ひがたし。畢竟たゞわが身を修めて、人を責めざるべし。是世にをるの道なり。

書き下し

一世に居るには、人情を知り、時変を考へて、天命に安ずべし。或老人のいへるは、年の積に、世の中のありさまを、とかく思ひ知り行くままに、わが生める子、わが禄をあたふる奴だに、わが心のままになりがたし。況や世の人の心、さまざまに変れば、わが思ふままに従ひがたし。畢竟ただわが身を修めて、人を責めざるべし。是世にをるの道なり。

現代語訳

世に居るには、人情を知り、時の変化を考えて、天命に安んじなさい。ある老人が言うには、年を重ねるにつれて、世の中のありさまをあれこれと思い知っていくと、自分の生んだ子や、自分が禄を与える召使いでさえ、自分の心のままにはなりがたい。まして世の人の心はさまざまに変わるので、自分の思うままに従わせることは難しい。結局はただ自分の身を修めて、人を責めないようにすべきだ、と。これが世に居る道です。

解説

ある老人の言葉を借りて、世渡りの要諦を述べています。自分の子どもや雇い人でさえ思いどおりにならないのだから、世の中の人が思いどおりにならないのは当たり前で、結局できることは自分を修めて人を責めないことだけだ、というのです。年を重ねた人の実感がこもった言葉で、七十九歳の益軒自身の実感でもあったでしょう。人を変えようとして疲れるより、自分を整えることに力を注ぐ。この諦観は、決して投げやりではなく、心を穏やかに保つための成熟した知恵です。

この章句が説くこと

人情天命修身寛容老い

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