大和俗訓 / 巻之八・応接
一賓客を久しく待たしめざるは、主人の禮なれば、古人のよしとする事なり。客來らば、我が位よりいやしき人なりとも、早く出て對すべし。久しく待たしむべからず。客を久しく待たしむるは、無禮の至なり。富貴權勢の家に、必此あやまりあり。もし故ありて、早く出であふ事ならずば、人をして其由を告げやるべし。周公は文王の子、武王の弟にて、其位貴かりしかど、客來れる折ふし、髮洗ひ給へば、髮をにぎりて客にあひ、飯をくひ給へば、口中なる食をはきて、客にあひたまふ。人の心を失はんことをおそれ給ひてなり。又家に敎なければ、其やつこ、必客に對して無禮なり。ことに權勢の家のやつこ、主人の戒なければ、必主人の權勢にほこり、賓客におごりて、無禮を行ふ。是諸人のいかり惡む所なり。其やつこは責むるにたらず、其とがは、皆主人に歸す。主人たる人是を知らざるべけんや。
新字:一賓客を久しく待たしめざるは、主人の礼なれば、古人のよしとする事なり。客来らば、我が位よりいやしき人なりとも、早く出て対すべし。久しく待たしむべからず。客を久しく待たしむるは、無礼の至なり。富貴権勢の家に、必此あやまりあり。もし故ありて、早く出であふ事ならずば、人をして其由を告げやるべし。周公は文王の子、武王の弟にて、其位貴かりしかど、客来れる折ふし、髪洗ひ給へば、髪をにぎりて客にあひ、飯をくひ給へば、口中なる食をはきて、客にあひたまふ。人の心を失はんことをおそれ給ひてなり。又家に教なければ、其やつこ、必客に対して無礼なり。ことに権勢の家のやつこ、主人の戒なければ、必主人の権勢にほこり、賓客におごりて、無礼を行ふ。是諸人のいかり悪む所なり。其やつこは責むるにたらず、其とがは、皆主人に帰す。主人たる人是を知らざるべけんや。
書き下し
一賓客を久しく待たしめざるは、主人の礼なれば、古人のよしとする事なり。客来らば、我が位よりいやしき人なりとも、早く出て対すべし。久しく待たしむべからず。客を久しく待たしむるは、無礼の至なり。富貴権勢の家に、必此あやまりあり。もし故ありて、早く出であふ事ならずば、人をして其由を告げやるべし。周公は文王の子、武王の弟にて、其位貴かりしかど、客来れる折ふし、髪洗ひ給へば、髪をにぎりて客にあひ、飯をくひ給へば、口中なる食をはきて、客にあひたまふ。人の心を失はんことをおそれ給ひてなり。又家に教なければ、其やつこ、必客に対して無礼なり。ことに権勢の家のやつこ、主人の戒なければ、必主人の権勢にほこり、賓客におごりて、無礼を行ふ。是諸人のいかり悪む所なり。其やつこは責むるにたらず、其とがは、皆主人に帰す。主人たる人是を知らざるべけんや。
現代語訳
客人を長く待たせないのは主人の礼なので、古人がよしとしたことです。客が来たら、自分の位より低い人であっても、早く出て向き合いなさい。長く待たせてはいけません。客を長く待たせるのは、無礼の至りです。富貴や権勢のある家には、必ずこの誤りがあります。もしわけがあって早く出て会うことができないなら、人をやってその理由を告げさせなさい。周公は文王の子、武王の弟で、その位は貴かったけれど、客が来たとき、髪を洗っておられれば髪を握って客に会い、食事をしておられれば口の中の食べ物を吐き出して客に会われました。人の心を失うことを恐れられたからです。また家に教えがなければ、その召使いは必ず客に対して無礼です。とくに権勢のある家の召使いは、主人の戒めがなければ、必ず主人の権勢にほこって、客人におごり、無礼を行います。これは多くの人の怒り憎むところです。その召使いは責めるに足りず、そのとがはみな主人に帰します。主人である人は、これを知らないでいられましょうか。
解説
この章句が説くこと
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