大和俗訓 / 巻之八・応接
一臍下三寸を丹田と云ふ。人の一身の氣を、つねに丹田にをさめて、胸にあつむべからず。是氣ををさむる良法なり。人に交り、事に應じ、物をいふに、まづ心をしづかにし、又氣を丹田にをさめて、物をいひ、事をなすべし。是氣の本を立つるなり。本たてば、力ありて道生ず。然らずして、氣のぼりて胸にあつまれば、心動きさわぎてをさまらず。此時ものいひ、事をなしいだせば、力なくて、必あやまり多し。學者身ををさめんと思はゞ、心を平かにし、氣を和かにすべし。氣を胸にあつめずして吐出し、丹田にをさむること、術者の言に似たりといへども、よく習ひなせば、甚其しるしを得ることあり。物をいひ、業をつとむるに、氣ををさむる良法なり。
新字:一臍下三寸を丹田と云ふ。人の一身の気を、つねに丹田にをさめて、胸にあつむべからず。是気ををさむる良法なり。人に交り、事に応じ、物をいふに、まづ心をしづかにし、又気を丹田にをさめて、物をいひ、事をなすべし。是気の本を立つるなり。本たてば、力ありて道生ず。然らずして、気のぼりて胸にあつまれば、心動きさわぎてをさまらず。此時ものいひ、事をなしいだせば、力なくて、必あやまり多し。学者身ををさめんと思はゞ、心を平かにし、気を和かにすべし。気を胸にあつめずして吐出し、丹田にをさむること、術者の言に似たりといへども、よく習ひなせば、甚其しるしを得ることあり。物をいひ、業をつとむるに、気ををさむる良法なり。
書き下し
一臍下三寸を丹田と云ふ。人の一身の気を、つねに丹田にをさめて、胸にあつむべからず。是気ををさむる良法なり。人に交り、事に応じ、物をいふに、まづ心をしづかにし、又気を丹田にをさめて、物をいひ、事をなすべし。是気の本を立つるなり。本たてば、力ありて道生ず。然らずして、気のぼりて胸にあつまれば、心動きさわぎてをさまらず。此時ものいひ、事をなしいだせば、力なくて、必あやまり多し。学者身ををさめんと思はば、心を平かにし、気を和かにすべし。気を胸にあつめずして吐出し、丹田にをさむること、術者の言に似たりといへども、よく習ひなせば、甚其しるしを得ることあり。物をいひ、業をつとむるに、気ををさむる良法なり。
現代語訳
へその下三寸を丹田といいます。人の一身の気を、いつも丹田に収めて、胸に集めてはいけません。これが気を収めるよい方法です。人と交わり、事に応じ、物を言うとき、まず心を静かにし、また気を丹田に収めて、物を言い、事をなしなさい。これが気の本を立てることです。本が立てば、力があって道が生じます。そうでなくて、気がのぼって胸に集まれば、心が動き騒いで収まりません。このとき物を言い、事をなせば、力がなくて必ず誤りが多い。学ぶ者が身を修めようと思うなら、心を平らかにし、気を和らかにしなさい。気を胸に集めずに吐き出し、丹田に収めることは、術者の言うことに似ていますが、よく習い行えば、たいへんその効果を得ることがあります。物を言い、業を努めるのに、気を収めるよい方法です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『養生訓』巻第二・総論下一臍下三寸を丹田と云ふ。腎間の動気ここにあり。難経に、臍下腎間の動気は、人の生命なり。十二経の根本なりといへり。是人身の命根のある所なり。養気の術、つねに腰を正しく据ゑ、真気を丹田にをさめ集め、呼吸をしづめてあらくせず、事にあたつては、胸中より微気をしばしば口に吐き出して、胸中に気をあつめずして、丹田に気をあつむべし。如此すれば、気のぼらず、胸さわがずして、身に力あり。貴人に対して物をいふにも、大事の変にのぞみ、いそがはしき時も、如此すべし。もし止む事を得ずして、人と是非を論ずとも、怒気にやぶられず、浮気ならずして、あやまりなし。或は芸術をつとめ、武人の鎗太刀をつかひ、敵と戦ふにも、皆此法を主とすべし。是事をつとめ気を養ふに益ある術なり。凡技術を行ふ者、殊に武人は、此の法を知らずんばあるべからず。又道士の気を養ひ、比丘の坐禅するも、皆真気を臍下にをさむる法なり。是主静の工夫、術者の秘訣なり。
-
『養生訓』巻第二・総論下一内慾をすくなくし、外邪をふせぎ、身を時々労動し、ねぶりをすくなくす。此の四は養生の大要なり。一気を和平にし、あらくすべからず。静かにして、妄に動すべからず。ゆるやかにして急なるべからず。言語をすくなくして、気をうごかすべからず。つねに気を臍の下にをさめて、胸にのぼらしむべからず。是気を養ふ法なり。
-
『大和俗訓』巻之四・心術下一人も血気をさまらざれば、人に対するにも心さだかならず。浮気にておちつかざれば、言も行も、理にあたらず。戦場にて敵と戦ふにも、気上りて心しづかならざれば、動きさわぎて、敵にかちがたく、退きやすし。文字をかくにも、字ごとに其所におちつきて、ゆたかに見ゆるは能書なり。文字おちつかざるは、悪筆なり。万の事皆気の下にをりあひて静なる時ならでは、道理にかなひがたし。
-
『養生訓』巻第二・総論下一千金方に、常に鼻より清気を引入れ、口より濁気を吐出す。入るる事多く、出す事すくなくす。出す時は、口をほそく開きて、少し吐くべし。一常の呼吸のいきは、ゆるやかにして、深く丹田に入るべし、急なるべからず。
-
言志四録・言志晩録 第七十九条 臍下に実を畜ふ人身は臍を受気の蔕と為す。則ち震気此より発す。宜しく実を臍下に畜へ、虚を臍上に函るべし。呼吸は臍上と相消息し、筋力は臍下よりして運動す。思慮云為、皆此に根柢す。凡百の技能も亦多く此くの如し。
-
『養生訓』巻第二・総論下一調息の法、呼吸をととのへ静にすれば、息やうやく微なり。弥久しければ、後は鼻中に全く気息なきが如し。只臍の上より、微息往来する事をおぼゆ。如此すれば神気定まる。是気を養ふ術なり。呼吸は一身の気の出入する道路なり、あらくすべからず。一養生の術、まづ心法をよくつつしみ守らざれば行はれがたし。心を静にして、さわがしからず、いかりをおさへ、慾をすくなくして、つねに楽んでうれへず。是養生の術にて、心を守る道なり。心法を守らざれば養生の術行はれず。故に心を養ひ身を養ふの工夫二なし、一術なり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る