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大和俗訓 / 巻之四・心術下

一人も血氣をさまらざれば、人に對するにも心さだかならず。浮氣にておちつかざれば、言も行も、理にあたらず。戰場にて敵と戰ふにも、氣上りて心しづかならざれば、動きさわぎて、敵にかちがたく、退きやすし。文字をかくにも、字ごとに其所におちつきて、ゆたかに見ゆるは能書なり。文字おちつかざるは、惡筆なり。萬の事皆氣の下にをりあひて靜なる時ならでは、道理にかなひがたし。

新字:一人も血気をさまらざれば、人に対するにも心さだかならず。浮気にておちつかざれば、言も行も、理にあたらず。戦場にて敵と戦ふにも、気上りて心しづかならざれば、動きさわぎて、敵にかちがたく、退きやすし。文字をかくにも、字ごとに其所におちつきて、ゆたかに見ゆるは能書なり。文字おちつかざるは、悪筆なり。万の事皆気の下にをりあひて静なる時ならでは、道理にかなひがたし。

書き下し

一人も血気をさまらざれば、人に対するにも心さだかならず。浮気にておちつかざれば、言も行も、理にあたらず。戦場にて敵と戦ふにも、気上りて心しづかならざれば、動きさわぎて、敵にかちがたく、退きやすし。文字をかくにも、字ごとに其所におちつきて、ゆたかに見ゆるは能書なり。文字おちつかざるは、悪筆なり。万の事皆気の下にをりあひて静なる時ならでは、道理にかなひがたし。

現代語訳

人も血気が収まらなければ、人に向かっても心が定まりません。浮ついて落ち着かなければ、言葉も行いも道理に当たりません。戦場で敵と戦うにも、気がのぼって心が静かでなければ、動き騒いで敵に勝ちがたく、退きやすい。文字を書くにも、一字一字がその場所に落ち着いて、ゆったりと見えるのが能書です。文字が落ち着かないのは悪筆です。万事みな、気が下に落ち着いて静かなときでなければ、道理にかないがたいのです。

解説

前の段を受け、気が上ずっている状態の害を、戦場と書道という二つの例で示しています。浮ついた心では言葉も行いも的を外し、戦えば退きやすく、字を書けば落ち着かない悪筆になるというのです。益軒はのちの應接の巻でも、気を臍下の丹田に収めよと説いています。スポーツ選手が試合前に呼吸を整えるように、大事な場面ほど気を下に落ち着けることが実力を発揮する鍵になります。会議や面接の前に深呼吸する習慣にも、この教えは通じます。

この章句が説くこと

心気静書道落ち着き道理

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