大和俗訓 / 巻之八・応接
一人に對するに、溫和にして謙り、己にほこらず、人をあなどらず、言すくなく、信實に愛敬ありて、向ひよからんこそ、善人とは云ふべけれ。我が身かろがろしからずして正しければ、溫和なれども人あなどらず。一朱子曰、平心和氣は、是學問の根本なり。此語よく思ふべし。人の萬事は、心氣を本とす。心氣和平ならざれば、萬事の本たゝずして、道理行はれず。人に交るに、尤和平なるべし。父母に事ふるには、必氣を下し、色を怡ばしめ、聲をやはらぐる、是心氣の和平なるなり。たゞ父母に事ふるに、かくの如くにすべきのみならず、すべて人に交るに、皆かくの如くなるべし。人一言わが心にそむけば、たちまち心に怒り、色にあらはれ、目をいからかし、言をはげしくする、これ心氣の和平ならざるなり。又器のせばきなり。心氣すでに動き亂れては、本みだれて末をさまらず。なんぞ其言行よろしかるべきや。
新字:一人に対するに、温和にして謙り、己にほこらず、人をあなどらず、言すくなく、信実に愛敬ありて、向ひよからんこそ、善人とは云ふべけれ。我が身かろがろしからずして正しければ、温和なれども人あなどらず。一朱子曰、平心和気は、是学問の根本なり。此語よく思ふべし。人の万事は、心気を本とす。心気和平ならざれば、万事の本たゝずして、道理行はれず。人に交るに、尤和平なるべし。父母に事ふるには、必気を下し、色を怡ばしめ、声をやはらぐる、是心気の和平なるなり。たゞ父母に事ふるに、かくの如くにすべきのみならず、すべて人に交るに、皆かくの如くなるべし。人一言わが心にそむけば、たちまち心に怒り、色にあらはれ、目をいからかし、言をはげしくする、これ心気の和平ならざるなり。又器のせばきなり。心気すでに動き乱れては、本みだれて末をさまらず。なんぞ其言行よろしかるべきや。
書き下し
一人に対するに、温和にして謙り、己にほこらず、人をあなどらず、言すくなく、信実に愛敬ありて、向ひよからんこそ、善人とは云ふべけれ。我が身かろがろしからずして正しければ、温和なれども人あなどらず。一朱子曰く、平心和気は、是学問の根本なり。此語よく思ふべし。人の万事は、心気を本とす。心気和平ならざれば、万事の本たたずして、道理行はれず。人に交るに、尤和平なるべし。父母に事ふるには、必気を下し、色を怡ばしめ、声をやはらぐる、是心気の和平なるなり。ただ父母に事ふるに、かくの如くにすべきのみならず、すべて人に交るに、皆かくの如くなるべし。人一言わが心にそむけば、たちまち心に怒り、色にあらはれ、目をいからかし、言をはげしくする、これ心気の和平ならざるなり。又器のせばきなり。心気すでに動き乱れては、本みだれて末をさまらず。なんぞ其言行よろしかるべきや。
現代語訳
人に対しては、温和でへりくだり、自分にほこらず、人をあなどらず、言葉少なく、誠実で愛敬があって、向き合って感じのよい人こそ、善人と言うべきです。わが身が軽々しくなく正しければ、温和であっても人はあなどりません。朱子は「平らかな心と和やかな気は、学問の根本である」と言いました。この言葉をよく思いなさい。人の万事は心気を本とします。心気が和平でなければ、万事の本が立たずに、道理は行われません。人と交わるには、とくに和平であるべきです。父母に仕えるには、必ず気を下し、顔色をやわらげ、声をやわらげる、これが心気の和平です。ただ父母に仕えるのにこのようにすべきだけでなく、すべて人と交わるのに、みなこのようであるべきです。人が一言自分の心にそむけば、たちまち心に怒り、顔色に表れ、目をいからせ、言葉をはげしくする、これは心気が和平でないのです。また器量が狭いのです。心気がすでに動き乱れては、本が乱れて末は治まりません。どうしてその言行がよろしいでしょうか。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『酔古堂剣掃』集峭・人に短有るは長を見はす所以作用有る者は、器宇定めて是れ凡ならず、受用有る者は、才情決然として露はれず。夫れ人に短有り、長を見はす所以なり。
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言志四録・言志後録 第百九十条 小事を誇るは器小なり事に大小有り。常に大事を斡旋する者は、小事に於ては則ち蔑如たり。今人毎に小事を区処し、済し得て後自ら喜び、人に向かって誇説す。是れ其の器の小なるを見る。又是の人従前未だ曾て大事に手を下さざるを見る。
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『了凡四訓』謙德之效・謙なれば則ち教へを受くるに地有り此に由りて之を觀れば、頭を舉ぐること三尺に、決して神明有り。吉に趨き凶を避くるは、斷然として我に由る。須らく我をして心を存し行ひを制し、毫も罪を天地鬼神に得ずして、心を虛しくし己を屈し、天地鬼神をして、時時我を憐れましめて、方めて福を受くるの基有り。彼の氣盈つる者は、必ず遠器に非ず。縱ひ發するも亦た受用無し。稍や識見有るの士は、必ず自ら其の量を狹めて、自ら其の福を拒むに忍びざるなり。況んや謙なれば則ち教へを受くるに地有りて、善を取ること窮まり無し。尤も業を修むる者の必ず少くべからざる所の者なり。
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史記 仲尼弟子列伝端木賜は、衛の人、字は子貢。孔子より少きこと三十一歳。子貢は利口巧辞、孔子常に其の弁を黜く。問ひて曰く、「汝と回とは孰れか愈れる」と。対へて曰く、「賜や何ぞ敢へて回を望まん。回や一を聞きて以て十を知り、賜や一を聞きて以て二を知る」と。子貢既已に業を受け、問ひて曰く、「賜は何人ぞや」と。孔子曰く、「汝は器なり」と。曰く、「何の器ぞや」と。曰く、「瑚璉なり」と。陳子禽子貢に問ひて曰く、「仲尼焉にか学ぶ」と。子貢曰く、「文武の道未だ地に墜ちず、人に在り、賢者は其の大なる者を識り、不賢者は其の小なる者を識る、文武の道有らざる莫し。夫子焉にか学ばざらん、而して亦何の常師か之れ有らん」と。又問ひて曰く、「孔子是の国に適けば必ず其の政を聞く。之を求めたるか、抑々之を与へたるか」と。子貢曰く、「夫子は温・良・恭・倹・譲以て之を得たり。夫子の之を求むるや、其れ諸れ人の之を求むるに異なるか」と。子貢問ひて曰く、「富みて驕ること無く、貧しくして諂ふこと無きは、何如」と。孔子曰く、「可なり。貧しくして道を楽しみ、富みて礼を好むに如かず」と。
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『慎思録』巻之三人に才能善行有るは、誠に是れ美事なり。然れども自ら衒ひて別人に誇耀すれば、則ち彼の誹笑を招きて、却って其の才行を喪ひ了る。方に其の量の小なるを見る。若し外に発露せずして、自ら中に韜晦すれば、則ち其の才行も亦大なり。且つ中に在れば必ず外に形はる。苟も之を積むこと久しければ、豈に才行の顕著ならざるを憂へんや。
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『格言聯璧』存養類・才有りて性緩なるは定めて大才に屬す才有りて性緩なるは、定めて大才に屬す。 智有りて氣和するは、斯れ大智と爲す。 氣は盛んなるを忌み、心は滿つるを忌み、才は露はるるを忌む。 作用有る者は、器宇定めて是れ凡ならず。 智慧有る者は、才情決然として露はれず。 意粗く性躁なれば、一事も成る無し。心平かに氣和すれば、千祥駢び集る。
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