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大和俗訓 / 巻之七・躬行下

一天地父母は、わが生れし本にして、わが身のよつて來れる初なり。忘るべからず。天地の恩を知らずして仁にそむき、父母の恩を思はずして孝を行はざるは、我が身の生れ來れる本初を忘れたるなり。人と生れたるかひなしと云ふべし。我人の恥ておそるべき事、是より大なるはなし。一善をするは、のぼり坂をのぼるが如し。つとめざれば爲しがたし。惡をするは下り坂をくだるが如し。つとめざれども爲しやすし。しかれば善は好みて力を用ひ、つとめ行ふべし。惡は惡みて愼みおそるべし。

新字:一天地父母は、わが生れし本にして、わが身のよつて来れる初なり。忘るべからず。天地の恩を知らずして仁にそむき、父母の恩を思はずして孝を行はざるは、我が身の生れ来れる本初を忘れたるなり。人と生れたるかひなしと云ふべし。我人の恥ておそるべき事、是より大なるはなし。一善をするは、のぼり坂をのぼるが如し。つとめざれば為しがたし。悪をするは下り坂をくだるが如し。つとめざれども為しやすし。しかれば善は好みて力を用ひ、つとめ行ふべし。悪は悪みて慎みおそるべし。

書き下し

一天地父母は、わが生れし本にして、わが身のよつて来れる初なり。忘るべからず。天地の恩を知らずして仁にそむき、父母の恩を思はずして孝を行はざるは、我が身の生れ来れる本初を忘れたるなり。人と生れたるかひなしと云ふべし。我人の恥ておそるべき事、是より大なるはなし。一善をするは、のぼり坂をのぼるが如し。つとめざれば為しがたし。悪をするは下り坂をくだるが如し。つとめざれども為しやすし。しかれば善は好みて力を用ひ、つとめ行ふべし。悪は悪みて慎みおそるべし。

現代語訳

天地と父母は、自分が生まれた本であって、自分の身がよって来た初めです。忘れてはいけません。天地の恩を知らずに仁にそむき、父母の恩を思わずに孝を行わないのは、自分の身が生まれて来た本初を忘れたのです。人と生まれたかいがないと言うべきです。自分も人も、恥じて恐れるべきことで、これより大きなものはありません。善をするのは、上り坂を上るようなものです。努めなければしがたい。悪をするのは、下り坂を下るようなものです。努めなくてもしやすい。ですから、善は好んで力を用い、努め行いなさい。悪は憎んで、つつしみ恐れなさい。

解説

躬行下の巻の結びです。自分の命の源である天地と父母の恩を忘れず、仁と孝を行うことが人の根本だと改めて確認しています。そして最後に、善を行うのは上り坂のように努力が要り、悪に流れるのは下り坂のように楽だというたとえで締めくくります。だからこそ善は好んで力を込め、悪は恐れて慎めというのです。よい習慣を続けるのは難しく、悪い習慣にはすぐ流されるのは、今も昔も変わりません。この坂のたとえは、自分を律するときの心強い合言葉になるでしょう。

この章句が説くこと

善悪恩孝仁

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