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大和俗訓 / 巻之七・躬行下

萬の事、兼て心を用ひ、おそれ愼み、ふかく思ひ、遠く慮りて事を行へば、あやまち少なく、悔すくなし。やつ下部などの心ならひは、さしあたりて我が身の便よき事のみを思ひて、後の禍を知らず。たとへばやがて雨降りなんと見ゆる空にも、雨衣の用意もなく、出づる時主持て行かんことを命ずれども、雨ふるまじきよしをあらがふ。やがて雨にぬれて苦めども懲りず、いくたびもまた斯の如し。かく用意なくて、後の憂をかへりみざるは、賤しき者のくせなれば、よからぬ事と知るべし。すべて人の惡を行ふも、過をするも、皆事にのぞみて思慮せざるより起る。酒食をほしいまゝに過して、病をおこすも、其時にのぞみ思案なくして、唯欲にまかせて飮食ふゆゑに、病を生じ、はては身を失ふにいたる。よく思案して愼むは、欲にかち、禍をまぬかるゝ道なり。

新字:万の事、兼て心を用ひ、おそれ慎み、ふかく思ひ、遠く慮りて事を行へば、あやまち少なく、悔すくなし。やつ下部などの心ならひは、さしあたりて我が身の便よき事のみを思ひて、後の禍を知らず。たとへばやがて雨降りなんと見ゆる空にも、雨衣の用意もなく、出づる時主持て行かんことを命ずれども、雨ふるまじきよしをあらがふ。やがて雨にぬれて苦めども懲りず、いくたびもまた斯の如し。かく用意なくて、後の憂をかへりみざるは、賤しき者のくせなれば、よからぬ事と知るべし。すべて人の悪を行ふも、過をするも、皆事にのぞみて思慮せざるより起る。酒食をほしいまゝに過して、病をおこすも、其時にのぞみ思案なくして、唯欲にまかせて飲食ふゆゑに、病を生じ、はては身を失ふにいたる。よく思案して慎むは、欲にかち、禍をまぬかるゝ道なり。

書き下し

万の事、兼て心を用ひ、おそれ慎み、ふかく思ひ、遠く慮りて事を行へば、あやまち少なく、悔すくなし。やつ下部などの心ならひは、さしあたりて我が身の便よき事のみを思ひて、後の禍を知らず。たとへばやがて雨降りなんと見ゆる空にも、雨衣の用意もなく、出づる時主持て行かんことを命ずれども、雨ふるまじきよしをあらがふ。やがて雨にぬれて苦めども懲りず、いくたびもまた斯の如し。かく用意なくて、後の憂をかへりみざるは、賤しき者のくせなれば、よからぬ事と知るべし。すべて人の悪を行ふも、過をするも、皆事にのぞみて思慮せざるより起る。酒食をほしいままに過して、病をおこすも、其時にのぞみ思案なくして、唯欲にまかせて飲食ふゆゑに、病を生じ、はては身を失ふにいたる。よく思案して慎むは、欲にかち、禍をまぬかるる道なり。

現代語訳

万事、あらかじめ心を用い、恐れつつしみ、深く思い、遠く慮って事を行えば、過ちは少なく、悔いも少ない。召使いなどの心の習いは、差し当たり自分の身に都合のよいことだけを思って、後の禍を知りません。たとえば、まもなく雨が降りそうに見える空でも、雨具の用意もなく、出るときに主人が持って行けと命じても、雨は降らないと言い張ります。やがて雨に濡れて苦しんでも懲りず、何度もまた同じです。このように用意がなくて後の憂いをかえりみないのは、いやしい者のくせなので、よくないことだと知りなさい。すべて人が悪を行うのも、過ちをするのも、みな事に臨んで思慮しないことから起こります。酒食をほしいままに過ごして病を起こすのも、その時に臨んで思案せず、ただ欲にまかせて飲み食いするので病を生じ、果ては身を失うに至るのです。よく思案してつつしむのは、欲に勝ち、禍を免れる道です。

解説

前の段の続きで、雨具を持てと言われても「降らない」と言い張り、濡れても懲りない召使いの例を挙げて、目先の手軽さばかり求める心の癖を戒めています。そして、悪事も過ちも、暴飲暴食による病も、すべてその場で考えないことから起こると一般化します。のちの『養生訓』に通じる飲食の戒めもここに顔を出しています。面倒だから、大丈夫だろうと準備を省く癖は誰にでもあります。一呼吸おいて先を考えることが、欲に勝ち災いを避ける鍵なのです。

この章句が説くこと

慮り思案養生欲備え

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