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大和俗訓 / 巻之七・躬行下

一古語に、人生在勤、勤則不匱といへり。つとめは利の本なり。よくつとめて、自ら得るは眞の利なり。利を專らむさぼれば、必害あり。農の田をつくりて、五穀を多く得るも、工のたくみを營み、商のあきなひて利を得るも、皆つとめよりなし出す利なり。士は佞巧を以てへつらはざれども、たゞ忠勤をだに專一にすれば、求めざれども君の寵ありて、祿を得、さいはひを得る。農は歲の凶にあひても怠らず、耕作に專一なれば、自らなりはひを得る。工は器を精しく作りて、粗糙ならざれば、必其利を得る。商人はいつはりなく、正直にして利分をすくなく取れば、諸人の信愛あつく、たのもしげありて、必あきもの多く賣るゝ故、利を得ること多し。是皆本をつとめて、自ら來る所の、まことの利なり。

新字:一古語に、人生在勤、勤則不匱といへり。つとめは利の本なり。よくつとめて、自ら得るは真の利なり。利を専らむさぼれば、必害あり。農の田をつくりて、五穀を多く得るも、工のたくみを営み、商のあきなひて利を得るも、皆つとめよりなし出す利なり。士は佞巧を以てへつらはざれども、たゞ忠勤をだに専一にすれば、求めざれども君の寵ありて、禄を得、さいはひを得る。農は歳の凶にあひても怠らず、耕作に専一なれば、自らなりはひを得る。工は器を精しく作りて、粗糙ならざれば、必其利を得る。商人はいつはりなく、正直にして利分をすくなく取れば、諸人の信愛あつく、たのもしげありて、必あきもの多く売るゝ故、利を得ること多し。是皆本をつとめて、自ら来る所の、まことの利なり。

書き下し

一古語に、人生は勤むるに在り、勤むれば則ち匱しからずといへり。つとめは利の本なり。よくつとめて、自ら得るは真の利なり。利を専らむさぼれば、必害あり。農の田をつくりて、五穀を多く得るも、工のたくみを営み、商のあきなひて利を得るも、皆つとめよりなし出す利なり。士は佞巧を以てへつらはざれども、ただ忠勤をだに専一にすれば、求めざれども君の寵ありて、禄を得、さいはひを得る。農は歳の凶にあひても怠らず、耕作に専一なれば、自らなりはひを得る。工は器を精しく作りて、粗糙ならざれば、必其利を得る。商人はいつはりなく、正直にして利分をすくなく取れば、諸人の信愛あつく、たのもしげありて、必あきもの多く売るる故、利を得ること多し。是皆本をつとめて、自ら来る所の、まことの利なり。

現代語訳

古語に「人生は勤むるに在り、勤むれば則ち匱しからず」とあります。勤めは利の本です。よく勤めて自然に得るのが真の利です。利をもっぱらむさぼれば、必ず害があります。農民が田を作って五穀を多く得るのも、職人が技を営み、商人が商って利を得るのも、みな勤めから生み出す利です。武士はへつらいの巧みさでこびなくても、ただ忠勤に専念すれば、求めなくても主君の寵愛があって、禄を得、幸いを得ます。農民は凶作の年にあっても怠らず、耕作に専念すれば、自然に生計を得ます。職人は器を精しく作って、粗雑でなければ、必ずその利を得ます。商人は偽りなく、正直で利ざやを少なく取れば、人々の信頼と好意が厚く、頼もしく思われて、必ず品物が多く売れるので、利を得ることが多い。これはみな本を勤めて、自然に来るまことの利です。

解説

引かれている古語は『春秋左氏伝』宣公十二年の「民生は勤むるに在り、勤むれば則ち匱しからず」に拠るものです。益軒は、士農工商それぞれが本業に誠実に励めば、利益は自然についてくると説きます。とくに、正直で利幅を小さくする商人ほど信頼されて多く売れ、結果的に儲かるという指摘は、のちの石田梅岩の商人道にも通じる考えです。品質と誠実さで顧客の信頼を得ることが、長期的な繁栄をもたらすという商売の原則は、今も変わりません。

この章句が説くこと

勤勉利商い正直家業

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