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大和俗訓 / 巻之七・躬行下

一德行は、我より上なる人を見てうらやみ、彼に及ばん事をおもふべし。ひきゝに臨みて、我が身を高しとおもふべからず。財祿は、われに劣れる人を見て、自らたのしむべし。世には、身の福祿、我ほどもなき人多し。人各其分を安んずれば、世にうらみ無く、もとめ無くして、樂多し。上を見て、我が身をあきたらず思へば、大富貴なる人も願多く、其欲かぎりなくして樂なし。下を見れば、分を安んじて樂多し。或人の歌に、上見ればはてしもあらぬ世の中に、我ほども無き人もこそあれ。とよめるが如し。

新字:一徳行は、我より上なる人を見てうらやみ、彼に及ばん事をおもふべし。ひきゝに臨みて、我が身を高しとおもふべからず。財禄は、われに劣れる人を見て、自らたのしむべし。世には、身の福禄、我ほどもなき人多し。人各其分を安んずれば、世にうらみ無く、もとめ無くして、楽多し。上を見て、我が身をあきたらず思へば、大富貴なる人も願多く、其欲かぎりなくして楽なし。下を見れば、分を安んじて楽多し。或人の歌に、上見ればはてしもあらぬ世の中に、我ほども無き人もこそあれ。とよめるが如し。

書き下し

一徳行は、我より上なる人を見てうらやみ、彼に及ばん事をおもふべし。ひききに臨みて、我が身を高しとおもふべからず。財禄は、われに劣れる人を見て、自らたのしむべし。世には、身の福禄、我ほどもなき人多し。人各其分を安んずれば、世にうらみ無く、もとめ無くして、楽多し。上を見て、我が身をあきたらず思へば、大富貴なる人も願多く、其欲かぎりなくして楽なし。下を見れば、分を安んじて楽多し。或人の歌に、上見ればはてしもあらぬ世の中に、我ほども無き人もこそあれ。とよめるが如し。

現代語訳

徳行は、自分より上の人を見てうらやみ、その人に及ぼうと思いなさい。低いところを見て、自分の身を高いと思ってはいけません。財や禄は、自分より劣った人を見て、自ら楽しみなさい。世には、身の幸福や禄が自分ほどもない人が多い。人がそれぞれその分に安んじれば、世に恨みもなく、求めもなくて、楽しみが多い。上を見て自分の身を物足りなく思えば、大富豪の人も願いが多く、その欲は限りがなくて楽しみがありません。下を見れば、分に安んじて楽しみが多い。ある人の歌に「上見ればはてしもあらぬ世の中に、我ほども無き人もこそあれ」(上を見れば果てしない世の中だが、自分ほども恵まれない人もいるのだ)とよんだようなものです。

解説

徳と財とで、比べる相手を使い分けよという実践的な知恵です。人格や行いは自分より優れた人を見て向上を目指し、財産や地位は自分より恵まれない人を見て満足する。多くの人はこの逆をして、財産は上と比べて不満を募らせ、人格は下と比べて安心してしまいます。SNSで他人の華やかな暮らしと比べて落ち込む現代人にこそ響く教えでしょう。比べる向きを変えるだけで、向上心と満足感を同時に持てるという、心の持ち方の工夫です。

この章句が説くこと

知足徳行比較分限楽しみ

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