大和俗訓 / 巻之六・躬行上
命なくては、富貴も用なし。命はかほど重きものなれども、義理にあたりては命をもかろく棄つること、君子はいふに及ばず、凡夫も能くするは、是人の本心なり。然れば、義理ほど重きものは無しと知るべし。かほどに一命より甚重き義理をすてゝ、きはめて輕き私欲にしたがふは、本心を失へるなり。誠に愚なりといふべし。
新字:命なくては、富貴も用なし。命はかほど重きものなれども、義理にあたりては命をもかろく棄つること、君子はいふに及ばず、凡夫も能くするは、是人の本心なり。然れば、義理ほど重きものは無しと知るべし。かほどに一命より甚重き義理をすてゝ、きはめて軽き私欲にしたがふは、本心を失へるなり。誠に愚なりといふべし。
書き下し
命なくては、富貴も用なし。命はかほど重きものなれども、義理にあたりては命をもかろく棄つること、君子はいふに及ばず、凡夫も能くするは、是人の本心なり。然れば、義理ほど重きものは無しと知るべし。かほどに一命より甚重き義理をすてて、きはめて軽き私欲にしたがふは、本心を失へるなり。誠に愚なりといふべし。
現代語訳
命がなければ富貴も用がありません。命はこれほど重いものですが、義理に当たっては命をも軽く捨てることは、君子は言うまでもなく、凡夫もよくするのは、これが人の本心だからです。そうであれば、義理ほど重いものはないと知りなさい。これほど一命よりはなはだ重い義理を捨てて、きわめて軽い私欲に従うのは、本心を失ったのです。まことに愚かだと言うべきです。
解説
前の段の結論です。富貴より命が重く、その命より義理が重いのだから、義理ほど重いものはない。それなのに、最も軽い私欲のために最も重い義理を捨てるのは、本心を失った愚かなことだと益軒は言います。凡人でも義のために命を賭けることがあるのは、それが人の本心だからだという指摘は、人間への信頼を示しています。小さな不正やごまかしも、この天秤にかけてみれば、いかに割に合わないかがよく分かるでしょう。
この章句が説くこと
義私欲本心命愚
関連する章句
-
呂氏春秋・髙義①君子の自ら行うや、動けば必ず義に縁る。行うこと必ず義に誠なれば、俗、之を窮せりと謂うと雖も、通ずるなり。行うこと義に誠ならず、動くこと義に縁らざれば、俗、之を通ぜりと謂うと雖も、窮せるなり。然らば則ち君子の窮通は、俗に異なる者有るなり。故に功に當りて以て賞を受け、罪に當りて以て罰を受く。賞當たらざれば、之に與うと雖も必ず辭す。罰誠に當たれば、之を赦すと雖も外けず。之を國に度れば、必ず利長久ならん。長久の主に於ける、必ず宜しく內は心に反して慚ぢずして然る後動くべし。
-
司馬法・仁本義を争いて利を争わず、是を以てその義を明らかにするなり。
-
呂氏春秋・論威①義なる者は、萬事の紀なり。君臣上下親疏の由りて起こる所なり。治亂安危過勝の在る所なり。過勝の道は、他に求むること勿し、必ず己に反る。
-
論語・陽貨篇子曰く、唯だ上知と下愚とは移らざるなり。
-
呂氏春秋・別類④義は小しく之を為せば、則ち小しく福有り、大いに之を為せば、則ち大いに福有り。禍に於いては則ち然らず。小しく之れ有るは、其の亡きに若かざるなり。招を射る者は其の小に中つるを欲するなり。獸を射る者は其の大に中つるを欲するなり。物は固より必ならず。安んぞ推す可けんや。
-
論語・為政篇子曰く、其の鬼に非ずして之を祭るは、諂いなり。義を見て為さざるは、勇無きなり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る