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大和俗訓 / 巻之六・躬行上

一よく人の言を用ひ、人の諫を聞く人は、必過すくなく、行正しく、よき譽あり。人の言を用ひざる者は、ひが事多く、そしり多し。もろこしに岳飛といへる忠臣あり。すぐれたる良將なりしが、此人大將として出陣する度ごとに、先かねて其下にしたがへる諸司をよび集め、饗應して、此度の戰、敵にかちぬべき手立をたづね、人々にいはせ、負けぬべき惡しきすぢをも言はせて聞く。其内にて、よきを選び用ひて、かねてよく謀を定めて、十分に勝ちぬべきと議定して後、出陣せしかば、戰ふたびごとに、かち軍のみして敗軍せず、向ふ所敵なかりしとなり。是軍のみにかぎらず、大事小事、皆此ごとく、兼て人とよくはかりて事を行はゞ、過なかるべし。孔子の、三軍を行ふに、つねの時事にのぞんでおそれ、謀を好んでなさん者に與せんとのたまひしも、此意なり。

新字:一よく人の言を用ひ、人の諫を聞く人は、必過すくなく、行正しく、よき誉あり。人の言を用ひざる者は、ひが事多く、そしり多し。もろこしに岳飛といへる忠臣あり。すぐれたる良将なりしが、此人大将として出陣する度ごとに、先かねて其下にしたがへる諸司をよび集め、饗応して、此度の戦、敵にかちぬべき手立をたづね、人々にいはせ、負けぬべき悪しきすぢをも言はせて聞く。其内にて、よきを選び用ひて、かねてよく謀を定めて、十分に勝ちぬべきと議定して後、出陣せしかば、戦ふたびごとに、かち軍のみして敗軍せず、向ふ所敵なかりしとなり。是軍のみにかぎらず、大事小事、皆此ごとく、兼て人とよくはかりて事を行はゞ、過なかるべし。孔子の、三軍を行ふに、つねの時事にのぞんでおそれ、謀を好んでなさん者に与せんとのたまひしも、此意なり。

書き下し

一よく人の言を用ひ、人の諫を聞く人は、必過すくなく、行正しく、よき誉あり。人の言を用ひざる者は、ひが事多く、そしり多し。もろこしに岳飛といへる忠臣あり。すぐれたる良将なりしが、此人大将として出陣する度ごとに、先かねて其下にしたがへる諸司をよび集め、饗応して、此度の戦、敵にかちぬべき手立をたづね、人々にいはせ、負けぬべき悪しきすぢをも言はせて聞く。其内にて、よきを選び用ひて、かねてよく謀を定めて、十分に勝ちぬべきと議定して後、出陣せしかば、戦ふたびごとに、かち軍のみして敗軍せず、向ふ所敵なかりしとなり。是軍のみにかぎらず、大事小事、皆此ごとく、兼て人とよくはかりて事を行はば、過なかるべし。孔子の、三軍を行ふに、つねの時事にのぞんでおそれ、謀を好んでなさん者に与せんとのたまひしも、此意なり。

現代語訳

よく人の言葉を用い、人の諫めを聞く人は、必ず過ちが少なく、行いが正しく、よい評判があります。人の言葉を用いない者は、間違いが多く、そしりも多い。中国に岳飛という忠臣がいました。すぐれた良将でしたが、この人は大将として出陣するたびに、まずあらかじめその配下の諸役を呼び集め、もてなして、このたびの戦で敵に勝てる手立てを尋ね、人々に言わせ、負けそうな悪い筋も言わせて聞きました。その中からよいものを選び用いて、あらかじめよく計略を定め、十分に勝てると議決してから出陣したので、戦うたびに勝ち戦ばかりで敗れず、向かうところ敵がなかったということです。これは戦だけに限らず、大事も小事もみなこのように、あらかじめ人とよく相談して事を行えば、過ちはないでしょう。孔子が、三軍を率いるには、平常の時に事に臨んで恐れ、謀を好んで成し遂げる者と共にしよう、と言われたのも、この意味です。

解説

南宋の名将岳飛が、出陣前に部下を集めて勝つ方法だけでなく負ける要因まで語らせ、議論を尽くしてから戦に臨んだという逸話です。結びは頭注のとおり『論語』述而篇で、孔子が向こう見ずな勇気より、事に臨んで恐れ、よく計画する者を選ぶと答えた言葉です。成功の筋道だけでなく失敗のリスクも洗い出させるやり方は、今でいう事前検討やリスク分析そのものです。上に立つ者ほど独断を避け、衆知を集めることが勝利の条件になると教えています。

この章句が説くこと

衆知諫め岳飛論語計画

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