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大和俗訓 / 巻之六・躬行上

一父母われを生むといへど、君の養にあらざれば、我が身立たず。君の祿をうけて、わが身を養ふのみならず、父母妻子をやしなひ、奴婢をつかひ、衣服、居宅、器物、萬の用ともしからずして、安樂に世をわたる事、ひとへに君のたまものなり。是又父母にならびて、其恩大なり。君につかふるには、我が身をわすれて、身をわが物とすべからず。君に奉りおくべし。是身をゆだぬるなり。論語に、子夏曰、事父母能竭其力、事君能致其身とは是なり。

新字:一父母われを生むといへど、君の養にあらざれば、我が身立たず。君の禄をうけて、わが身を養ふのみならず、父母妻子をやしなひ、奴婢をつかひ、衣服、居宅、器物、万の用ともしからずして、安楽に世をわたる事、ひとへに君のたまものなり。是又父母にならびて、其恩大なり。君につかふるには、我が身をわすれて、身をわが物とすべからず。君に奉りおくべし。是身をゆだぬるなり。論語に、子夏曰、事父母能竭其力、事君能致其身とは是なり。

書き下し

一父母われを生むといへど、君の養にあらざれば、我が身立たず。君の禄をうけて、わが身を養ふのみならず、父母妻子をやしなひ、奴婢をつかひ、衣服、居宅、器物、万の用ともしからずして、安楽に世をわたる事、ひとへに君のたまものなり。是又父母にならびて、其恩大なり。君につかふるには、我が身をわすれて、身をわが物とすべからず。君に奉りおくべし。是身をゆだぬるなり。論語に、子夏曰く、父母に事へて能く其の力を竭し、君に事へて能く其の身を致すとは是なり。

現代語訳

父母が自分を生んだといっても、主君の養いがなければ、自分の身は立ちません。主君の禄を受けて、自分の身を養うだけでなく、父母妻子を養い、召使いを使い、衣服・住まい・道具、あらゆる用に不足なく、安楽に世を渡ることは、ひとえに主君のたまものです。これもまた父母に並んで、その恩は大きいのです。主君に仕えるには、自分の身を忘れて、身を自分のものとしてはいけません。主君に奉っておきなさい。これが身をゆだねることです。『論語』に子夏が「父母に事えて能く其の力を竭し、君に事えて能く其の身を致す」と言ったのはこれです。

解説

主君から受ける禄によって自分も家族も暮らしが成り立つのだから、主君の恩は父母の恩に並ぶと益軒は説きます。そして『論語』学而篇の子夏の言葉を引いて、主君には身を捧げて仕えよと言います。身を主君のものとするという考えは、武士の主従関係を前提としたもので、そのまま今の職場に当てはめるべきではありません。ただ、自分と家族の生活を支えてくれる勤め先や社会への感謝を忘れず、与えられた役目に誠実に尽くす姿勢は、今も大切にしたいものです。

この章句が説くこと

忠恩主君論語奉公

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