大和俗訓 / 巻之六・躬行上
一父母の恩、きはまりなき事天地にひとし。父母なくんば、何ぞ我あらん。其恩海よりふかく、山より高し。海山は限りあり、父母のめぐみはかぎりなし。いかんしてか、其恩をむくいんや。たゞ孝を行ひて、其恩の萬一を報ずべし。父母につかへて其力をつくして、惜むべからず。力とは身と財との力を云ふ。身の力の限りをつくして事へ、財の力の限りをつくして養ひ、其力ををしむべからず。わかき時は、われも人も父母の恩を思はず、力をつくさずして不孝を行ひ、父母終りて、後悔すれど益なし。是生の限りなき恨なり。人の子たる者、後悔なからん事を思ひ、父母の生ける時、力をつくして孝を行ふべし。一日も孝を行はずして、あだに過すべからず。父母につかふる年は久しからず。孝子は日を惜むといへる事、心にかくべし。
新字:一父母の恩、きはまりなき事天地にひとし。父母なくんば、何ぞ我あらん。其恩海よりふかく、山より高し。海山は限りあり、父母のめぐみはかぎりなし。いかんしてか、其恩をむくいんや。たゞ孝を行ひて、其恩の万一を報ずべし。父母につかへて其力をつくして、惜むべからず。力とは身と財との力を云ふ。身の力の限りをつくして事へ、財の力の限りをつくして養ひ、其力ををしむべからず。わかき時は、われも人も父母の恩を思はず、力をつくさずして不孝を行ひ、父母終りて、後悔すれど益なし。是生の限りなき恨なり。人の子たる者、後悔なからん事を思ひ、父母の生ける時、力をつくして孝を行ふべし。一日も孝を行はずして、あだに過すべからず。父母につかふる年は久しからず。孝子は日を惜むといへる事、心にかくべし。
書き下し
一父母の恩、きはまりなき事天地にひとし。父母なくんば、何ぞ我あらん。其恩海よりふかく、山より高し。海山は限りあり、父母のめぐみはかぎりなし。いかんしてか、其恩をむくいんや。ただ孝を行ひて、其恩の万一を報ずべし。父母につかへて其力をつくして、惜むべからず。力とは身と財との力を云ふ。身の力の限りをつくして事へ、財の力の限りをつくして養ひ、其力ををしむべからず。わかき時は、われも人も父母の恩を思はず、力をつくさずして不孝を行ひ、父母終りて、後悔すれど益なし。是生の限りなき恨なり。人の子たる者、後悔なからん事を思ひ、父母の生ける時、力をつくして孝を行ふべし。一日も孝を行はずして、あだに過すべからず。父母につかふる年は久しからず。孝子は日を惜むといへる事、心にかくべし。
現代語訳
父母の恩が限りないことは、天地と同じです。父母がなければ、どうして自分がありましょうか。その恩は海より深く、山より高い。海や山には限りがありますが、父母の恵みには限りがありません。どうしてその恩に報いましょうか。ただ孝を行って、その恩の万分の一を報いなさい。父母に仕えて、その力を尽くして惜しんではいけません。力とは身と財の力をいいます。身の力の限りを尽くして仕え、財の力の限りを尽くして養い、その力を惜しんではいけません。若いときは、自分も人も父母の恩を思わず、力を尽くさずに不孝をし、父母が亡くなってから後悔しても益がありません。これは一生の限りない恨みです。人の子である者は、後悔がないようにと思い、父母が生きているうちに、力を尽くして孝を行いなさい。一日も孝を行わずに、むだに過ごしてはいけません。父母に仕える年月は長くありません。「孝子は日を惜しむ」ということを心にかけなさい。
解説
この章句が説くこと
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