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大和俗訓 / 巻之五・言語

一あやしき事を耳に聞くとも、目に見ざる事の、たしかならざるをば、口にいふべからず。必虛說多し。人のみだりにかたりつたふる神變奇怪なることを、我も亦語れば、世に傳はりて、人をまよはす事多し。おろかなる人は、聞く事にまよひて、いつはりを信じやすし。すべてあやしき事は、語るべからず。たしかに見たる事にも、心目の病によりて、あやしき事見ゆ。又あやしと見ゆる事も、ゆゑありてあやしからざる事おほし。

新字:一あやしき事を耳に聞くとも、目に見ざる事の、たしかならざるをば、口にいふべからず。必虚説多し。人のみだりにかたりつたふる神変奇怪なることを、我も亦語れば、世に伝はりて、人をまよはす事多し。おろかなる人は、聞く事にまよひて、いつはりを信じやすし。すべてあやしき事は、語るべからず。たしかに見たる事にも、心目の病によりて、あやしき事見ゆ。又あやしと見ゆる事も、ゆゑありてあやしからざる事おほし。

書き下し

一あやしき事を耳に聞くとも、目に見ざる事の、たしかならざるをば、口にいふべからず。必虚説多し。人のみだりにかたりつたふる神変奇怪なることを、我も亦語れば、世に伝はりて、人をまよはす事多し。おろかなる人は、聞く事にまよひて、いつはりを信じやすし。すべてあやしき事は、語るべからず。たしかに見たる事にも、心目の病によりて、あやしき事見ゆ。又あやしと見ゆる事も、ゆゑありてあやしからざる事おほし。

現代語訳

あやしいことを耳に聞いても、目で見ていないことで確かでないものは、口に言ってはいけません。必ず作り話が多いのです。人がみだりに語り伝える神秘や奇怪なことを、自分もまた語れば、世に伝わって人を迷わすことが多い。愚かな人は、聞くことに迷って、偽りを信じやすい。すべてあやしいことは語ってはいけません。確かに見たことでも、心や目の病によって、あやしいものが見えることがあります。またあやしいと見えることも、わけがあってあやしくないことが多いのです。

解説

前の段に続き、確かめていない不思議な話を広めるなと戒めています。さらに益軒は、自分の目で見たことでさえ、心身の状態によって錯覚が起こりうると指摘し、不思議に見えることにも実は合理的な理由がある場合が多いと述べます。これは自分の知覚さえ疑ってかかる、科学的な姿勢そのものです。本草学で実物の観察を重んじた益軒ならではの視点でしょう。自分の思い込みや錯覚を疑い、原因を冷静に探る態度は、今の情報社会でも大切な心得です。

この章句が説くこと

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