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大和俗訓 / 巻之五・衣服

一身のかざりに心を用ひ過すべからず。ひまつひえて益なし。俗人奴婢のともがらに譽められんとて、衣服をかざれば、識者にいやしめらる。何の益もなく、はかなき事なり。一左傳に、服の不衷身の災なりといへり。著る物のたゞしからずして、其身に似合はざるは身のわざはひとなる。此ためし世に多きことなり。いましむべし。國語曰、服心之文也。心の好むことを、身にも、必服する故に、衣服は心の外にあらはるゝ文なり。正しからざる服著たるは、心の內見えてはづかし。つゝしんでえらび用ふべし。一衣服は、常に用ひて、いつもよき製法染色あり。時の好にしたがひて、世のあしき俗にうつるべからず。

新字:一身のかざりに心を用ひ過すべからず。ひまつひえて益なし。俗人奴婢のともがらに誉められんとて、衣服をかざれば、識者にいやしめらる。何の益もなく、はかなき事なり。一左伝に、服の不衷身の災なりといへり。著る物のたゞしからずして、其身に似合はざるは身のわざはひとなる。此ためし世に多きことなり。いましむべし。国語曰、服心之文也。心の好むことを、身にも、必服する故に、衣服は心の外にあらはるゝ文なり。正しからざる服著たるは、心の内見えてはづかし。つゝしんでえらび用ふべし。一衣服は、常に用ひて、いつもよき製法染色あり。時の好にしたがひて、世のあしき俗にうつるべからず。

書き下し

一身のかざりに心を用ひ過すべからず。ひまつひえて益なし。俗人奴婢のともがらに誉められんとて、衣服をかざれば、識者にいやしめらる。何の益もなく、はかなき事なり。一左伝に、服の不衷身の災なりといへり。著る物のただしからずして、其身に似合はざるは身のわざはひとなる。此ためし世に多きことなり。いましむべし。国語曰く、服は心の文なり。心の好むことを、身にも、必服する故に、衣服は心の外にあらはるる文なり。正しからざる服著たるは、心の内見えてはづかし。つつしんでえらび用ふべし。一衣服は、常に用ひて、いつもよき製法染色あり。時の好にしたがひて、世のあしき俗にうつるべからず。

現代語訳

身の飾りに心を用いすぎてはいけません。時間と費用がかかって益がありません。俗人や召使いたちにほめられようとして衣服を飾れば、見識ある人にいやしまれます。何の益もなく、はかないことです。『左伝』に「服の不衷は身の災いなり」とあります。着る物が正しくなく、その身に似合わないのは、身の災いとなります。この例は世に多いことです。戒めなさい。『国語』に「服は心の文なり」とあります。心の好むことを身にも必ず着るので、衣服は心が外に表れた模様なのです。正しくない服を着ているのは、心の内が見えて恥ずかしい。つつしんで選んで用いなさい。衣服は、いつも着ていて、いつでもよい仕立てや染め色があります。時の流行に従って、世の悪い風俗に移ってはいけません。

解説

『左伝』僖公二十四年の「服の衷ならざるは身の災なり」と、『国語』の「服は心の文なり」という二つの古典を引いて、衣服と心の関係を説いています。身を飾ることに時間とお金を費やしても、わかる人にはかえって軽んじられるというのです。服装は心の模様であり、選ぶ服にはその人の考え方が表れます。流行を追うより、いつの時代にも通用する仕立てや色を選べばよいという助言は、長く着られる良い服を少し持つという今の賢い消費の考え方とも重なります。

この章句が説くこと

衣服心流行倹約左伝

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