大和俗訓 / 巻之四・心術下
一人の心、平生無事なる時、つねに樂おほければ、いかなるわざはひ出來ても、苦まず。たとへば富める人は凶年にあひても飢ゑず、血氣つよき人は、はげしき寒氣にあたりても感ぜざるが如し。もし無事なるとき樂なければ、にはかに事いでき、わざはひ來るとき、うれひ苦み、心をうごかし亂して取失ふ。つねの時よく工夫して、心を養ひて、樂を深くすべし。心は天君なり。つねに樂ましむべし。外事にわづらはされて、苦むべからず。一不意なる禍にあひて、すべきやうなくとも、心を苦めて、樂を失ふべからず。心しづかに思慮すれば、其禍をのがるゝ慮もいでくることあり。行きつまり、心せはしかるべからず、心ひろくして、よく思を延ぶべし。
新字:一人の心、平生無事なる時、つねに楽おほければ、いかなるわざはひ出来ても、苦まず。たとへば富める人は凶年にあひても飢ゑず、血気つよき人は、はげしき寒気にあたりても感ぜざるが如し。もし無事なるとき楽なければ、にはかに事いでき、わざはひ来るとき、うれひ苦み、心をうごかし乱して取失ふ。つねの時よく工夫して、心を養ひて、楽を深くすべし。心は天君なり。つねに楽ましむべし。外事にわづらはされて、苦むべからず。一不意なる禍にあひて、すべきやうなくとも、心を苦めて、楽を失ふべからず。心しづかに思慮すれば、其禍をのがるゝ慮もいでくることあり。行きつまり、心せはしかるべからず、心ひろくして、よく思を延ぶべし。
書き下し
一人の心、平生無事なる時、つねに楽おほければ、いかなるわざはひ出来ても、苦まず。たとへば富める人は凶年にあひても飢ゑず、血気つよき人は、はげしき寒気にあたりても感ぜざるが如し。もし無事なるとき楽なければ、にはかに事いでき、わざはひ来るとき、うれひ苦み、心をうごかし乱して取失ふ。つねの時よく工夫して、心を養ひて、楽を深くすべし。心は天君なり。つねに楽ましむべし。外事にわづらはされて、苦むべからず。一不意なる禍にあひて、すべきやうなくとも、心を苦めて、楽を失ふべからず。心しづかに思慮すれば、其禍をのがるる慮もいでくることあり。行きつまり、心せはしかるべからず、心ひろくして、よく思を延ぶべし。
現代語訳
人の心は、平生何事もないときに、いつも楽しみが多ければ、どんな災いが起きても苦しみません。たとえば富んだ人は凶作の年にあっても飢えず、血気の強い人ははげしい寒さにあたっても病にかからないようなものです。もし無事なときに楽しみがなければ、急に事が起こり、災いが来たとき、憂い苦しみ、心を動かし乱して、取り乱します。平常のときによく工夫して心を養い、楽しみを深くしておきなさい。心は天君です。いつも楽しませるべきです。外のことにわずらわされて苦しんではいけません。不意の災いにあって、どうしようもなくても、心を苦しめて楽しみを失ってはいけません。心を静かにして思慮すれば、その災いを逃れる思案も出てくることがあります。行き詰まっても、心をせわしくしてはいけません。心を広くして、よく思いをのびやかにしなさい。
解説
この章句が説くこと
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