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大和俗訓 / 巻之四・心術下

一人の心は時によりかはりやすし。人の心も、わが心も、皆たのむべからず。是後悔なき道なり。樂を知る人は、天をうらみず、人をとがめず、世に求めなくして、其分を安んず。樂を知らざるものは是に反す。一人倫にまじはり、萬事を行ふに、心平かに、氣和して、靜なるべし。靜ならざれば、氣騒しくあらくして、道理明ならず、道を行ふことかたし。故にまづ心氣ををさめ、和平にして靜なるべし。血氣さかんなる時は、氣さかのぼりて、心もともに定まらず。たとへば氣の上る病あれば心氣をさまらず。酒に醉ひたる時は、氣のぼりて心みだる。家を新に作りて、棟枅首梁柱など未だおちつかざる時、大風にあへば、倒れやすし。材木をりあひて後は、大風ふきてもたふれがたし。

新字:一人の心は時によりかはりやすし。人の心も、わが心も、皆たのむべからず。是後悔なき道なり。楽を知る人は、天をうらみず、人をとがめず、世に求めなくして、其分を安んず。楽を知らざるものは是に反す。一人倫にまじはり、万事を行ふに、心平かに、気和して、静なるべし。静ならざれば、気騒しくあらくして、道理明ならず、道を行ふことかたし。故にまづ心気ををさめ、和平にして静なるべし。血気さかんなる時は、気さかのぼりて、心もともに定まらず。たとへば気の上る病あれば心気をさまらず。酒に酔ひたる時は、気のぼりて心みだる。家を新に作りて、棟枅首梁柱など未だおちつかざる時、大風にあへば、倒れやすし。材木をりあひて後は、大風ふきてもたふれがたし。

書き下し

一人の心は時によりかはりやすし。人の心も、わが心も、皆たのむべからず。是後悔なき道なり。楽を知る人は、天をうらみず、人をとがめず、世に求めなくして、其分を安んず。楽を知らざるものは是に反す。一人倫にまじはり、万事を行ふに、心平かに、気和して、静なるべし。静ならざれば、気騒しくあらくして、道理明ならず、道を行ふことかたし。故にまづ心気ををさめ、和平にして静なるべし。血気さかんなる時は、気さかのぼりて、心もともに定まらず。たとへば気の上る病あれば心気をさまらず。酒に酔ひたる時は、気のぼりて心みだる。家を新に作りて、棟枅首梁柱など未だおちつかざる時、大風にあへば、倒れやすし。材木をりあひて後は、大風ふきてもたふれがたし。

現代語訳

人の心は時によって変わりやすいものです。人の心も自分の心も、みな頼みにしてはいけません。これが後悔のない道です。楽しみを知る人は、天を恨まず、人をとがめず、世に求めるものがなく、その分に安んじます。楽しみを知らない者はこの反対です。人の道に交わり、万事を行うには、心を平らかにし、気を和らげて、静かであるべきです。静かでなければ、気が騒がしく荒くなって、道理が明らかでなく、道を行うのが難しい。だからまず心と気を治めて、和やかで平らかに静かであるべきです。血気が盛んなときは、気がのぼって、心もともに定まりません。たとえば気ののぼる病があれば、心気が収まりません。酒に酔ったときは、気がのぼって心が乱れます。家を新しく建てて、棟や枅、梁、柱などがまだ落ち着かないときに大風にあえば、倒れやすい。材木がなじみ合ったあとは、大風が吹いても倒れにくいのです。

解説

三つの話題がつながった段です。人の心は変わりやすいので頼りすぎるなという戒め、楽しみを知る人は天も人も恨まないという『論語』憲問篇を思わせる言葉、そして心と気を静めよという教えです。建てたばかりの家は材木がなじまず大風で倒れやすいというたとえは、気が高ぶっているときの人の危うさをよく表しています。興奮や酒の勢いで大事な判断をしないこと、まず心を落ち着けてから人と向き合うことは、今も変わらない処世の基本です。

この章句が説くこと

心気静和平楽しみ血気

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