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大和俗訓 / 巻之四・心術下

一我が身に才ありても、ほこるべからず。才にほこれば、必あやまる。其上人心信服せず。小才ありとても、聖賢の書をあまねく讀まず、歴代の史にひろく通ぜずんば、古今天下の是非をわきまへがたし。經書にくらくして道を知らず、古今に通ぜずしてふるき迹を考へず、小才をたのみ、あながちに世の理をわかたんとすれば、あやまり多し。たとへば星なき量を以て、物の輕重をはかり、くもれる鏡を以て、物の妍媸をわかたんとするが如し。唯へりくだりて、人にとひ、古を考へて、義理を明むべし。愚なるわが心を以て、人をほめそしり、わづかなる才をたのみて、みづから是非を決すべからず。

新字:一我が身に才ありても、ほこるべからず。才にほこれば、必あやまる。其上人心信服せず。小才ありとても、聖賢の書をあまねく読まず、歴代の史にひろく通ぜずんば、古今天下の是非をわきまへがたし。経書にくらくして道を知らず、古今に通ぜずしてふるき迹を考へず、小才をたのみ、あながちに世の理をわかたんとすれば、あやまり多し。たとへば星なき量を以て、物の軽重をはかり、くもれる鏡を以て、物の妍媸をわかたんとするが如し。唯へりくだりて、人にとひ、古を考へて、義理を明むべし。愚なるわが心を以て、人をほめそしり、わづかなる才をたのみて、みづから是非を決すべからず。

書き下し

一我が身に才ありても、ほこるべからず。才にほこれば、必あやまる。其上人心信服せず。小才ありとても、聖賢の書をあまねく読まず、歴代の史にひろく通ぜずんば、古今天下の是非をわきまへがたし。経書にくらくして道を知らず、古今に通ぜずしてふるき迹を考へず、小才をたのみ、あながちに世の理をわかたんとすれば、あやまり多し。たとへば星なき量を以て、物の軽重をはかり、くもれる鏡を以て、物の妍媸をわかたんとするが如し。唯へりくだりて、人にとひ、古を考へて、義理を明むべし。愚なるわが心を以て、人をほめそしり、わづかなる才をたのみて、みづから是非を決すべからず。

現代語訳

自分に才能があっても、ほこってはいけません。才にほこれば、必ず誤ります。そのうえ人の心も信服しません。小才があっても、聖賢の書を広く読まず、歴代の歴史に広く通じていなければ、古今天下の是非をわきまえがたい。経書に暗くて道を知らず、古今に通じずに昔の事跡を考えず、小才を頼んで無理に世の理を分けようとすれば、誤りが多くなります。たとえば目盛りのないはかりで物の軽重をはかり、曇った鏡で物の美醜を見分けようとするようなものです。ただへりくだって人に問い、昔を考えて、義理を明らかにしなさい。愚かな自分の心で人をほめたりそしったりし、わずかな才を頼んで、自分で是非を決めてはいけません。

解説

才気のある人ほど陥りやすい落とし穴を戒めています。小才に頼って、古典や歴史の蓄積を学ばずに物事の是非を判断すれば、目盛りのないはかりや曇った鏡を使うように誤ってしまうというのです。益軒自身、膨大な書物を読み、本草学では各地を実地調査した人でした。ネット上の断片的な情報で即断しがちな今、へりくだって人に問い、過去の経験や歴史に照らして判断する姿勢は、専門家であっても忘れてはならない基本だといえます。

この章句が説くこと

才謙虚学問読書歴史

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