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大和俗訓 / 巻之四・心術下

一萬の事、正あり、中あり。正とは邪ならざるを云ふ。是善なり。中とは過不及なくして、よきほどなるを云ふ。是至善なり。のどかわく時湯水をのみ、うゑて食するは是正なり。よこしまにはあらず。かわくとて飮過し、うゑたるとて食過すは、中にあらず。よきほどに飮み食ふは中なり。是を以て萬事をおして知るべし。正なれども、中ならざれは、至善ならず。凡萬のわざ、過不及なく、よき程なるは、中なり。是卽道のある所なり。過不及ありて、よき程ならざれば、善事なりとても、道にかなはず。

新字:一万の事、正あり、中あり。正とは邪ならざるを云ふ。是善なり。中とは過不及なくして、よきほどなるを云ふ。是至善なり。のどかわく時湯水をのみ、うゑて食するは是正なり。よこしまにはあらず。かわくとて飲過し、うゑたるとて食過すは、中にあらず。よきほどに飲み食ふは中なり。是を以て万事をおして知るべし。正なれども、中ならざれは、至善ならず。凡万のわざ、過不及なく、よき程なるは、中なり。是即道のある所なり。過不及ありて、よき程ならざれば、善事なりとても、道にかなはず。

書き下し

一万の事、正あり、中あり。正とは邪ならざるを云ふ。是善なり。中とは過不及なくして、よきほどなるを云ふ。是至善なり。のどかわく時湯水をのみ、うゑて食するは是正なり。よこしまにはあらず。かわくとて飲過し、うゑたるとて食過すは、中にあらず。よきほどに飲み食ふは中なり。是を以て万事をおして知るべし。正なれども、中ならざれは、至善ならず。凡万のわざ、過不及なく、よき程なるは、中なり。是即道のある所なり。過不及ありて、よき程ならざれば、善事なりとても、道にかなはず。

現代語訳

何事にも正があり、中があります。正とは邪でないことをいいます。これは善です。中とは過不及がなく、ちょうどよいことをいいます。これは至善です。のどが渇いたときに湯水を飲み、飢えて食べるのは正です。よこしまではありません。渇いたからといって飲み過ぎ、飢えたからといって食べ過ぎるのは中ではありません。ほどよく飲み食べるのが中です。これによって万事を推して知りなさい。正であっても中でなければ至善ではありません。およそあらゆるわざは、過不及なく、ほどよいのが中です。これがすなわち道のあるところです。過不及があって、ほどよくなければ、善いことであっても道にかないません。

解説

「正しいこと」と「ほどよいこと」を区別した、分かりやすい説明です。喉が渇いて水を飲むのは正しいが、飲み過ぎれば中ではないという身近な例で、『中庸』の中の思想を解き明かしています。善い行いでも度を越せば道にかなわないという指摘は、のちの『養生訓』の飲食の教えにもつながります。運動や勉強、親切や倹約でさえ、やり過ぎれば害になります。正しいことをしているつもりのときこそ、それが「ほどよい」かを問い直すことが大切だと気づかされます。

この章句が説くこと

中正至善中庸節度

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