大和俗訓 / 巻之四・心術下
一家の内妻子家人の、われにつかふる勤、十分にわが心にあはざるとて、せめ怒るべからず。人にまじはるには、恕を以て人の非をゆるすべし。又わが衣食、家居、器物、財用など、事ごとに、わが心に十分に足りなんことを求むべからず。常に不足の事あるがよし。十分心にかなへば禍あり。家のいらかをふきて三瓦をおほさず、衣のえりを缺くも此意なりと、古人いへり。
新字:一家の内妻子家人の、われにつかふる勤、十分にわが心にあはざるとて、せめ怒るべからず。人にまじはるには、恕を以て人の非をゆるすべし。又わが衣食、家居、器物、財用など、事ごとに、わが心に十分に足りなんことを求むべからず。常に不足の事あるがよし。十分心にかなへば禍あり。家のいらかをふきて三瓦をおほさず、衣のえりを欠くも此意なりと、古人いへり。
書き下し
一家の内妻子家人の、われにつかふる勤、十分にわが心にあはざるとて、せめ怒るべからず。人にまじはるには、恕を以て人の非をゆるすべし。又わが衣食、家居、器物、財用など、事ごとに、わが心に十分に足りなんことを求むべからず。常に不足の事あるがよし。十分心にかなへば禍あり。家のいらかをふきて三瓦をおほさず、衣のえりを欠くも此意なりと、古人いへり。
現代語訳
家の中で妻子や使用人が自分に仕えるつとめが、十分に自分の心にかなわないからといって、責めたり怒ったりしてはいけません。人と交わるときは、思いやり(恕)をもって人の非を許しなさい。また自分の衣食・住まい・道具・金銭の使い方など、何事につけても、自分の心に十分満ち足りることを求めてはいけません。いつも不足のことがあるのがよいのです。十分に心にかなうと禍があります。家の屋根をふくのに三枚の瓦を覆わずにおき、衣のえりを欠いておくのも、この意味だと古人は言いました。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『大和俗訓』巻之四・心術下一慾すくなくして、わが身の足る事を知るものは、分限を安んじて、貧賤にしても亦楽しむ。たのしむ者は常にあきたる。慾多くして、足る事を知らざるものは、富貴にしても、分限を知らずして、あきたらず。あきたらざる者は、楽むことを知らずして、外に求めて止まず。つひにわざはひとなる事、亦多し。
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『養生訓』巻第二・総論下一凡の事、十分によからんことを求むれば、わが心のわづらひとなりて楽なし。禍も是より起る。又人の我に十分によからん事を求めて、人の足らざるを怒り咎れば、心のわづらひとなる。又日用の飲食、衣服、器物、家居、草木の品々も、皆美をこのむべからず。いささかよければ事足りぬ。十分によからん事を好むべからず。是皆わが気を養ふ工夫なり。
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『大和俗訓』巻之四・心術下一人の過をそしり、不善あるを甚しくせめ恥しむべからず。必人のうらみとなる。或はとがある人をうちたたきて、一旦心に快くすといへども、其人もし堪忍せずして報いば、大なるわざはひとなる。怒をおさへて、後のわざはひを能くかんがへ、わが心に十分快きを求むべからず。いやしき下部に対しても、此心づかひあるべし。
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『大和俗訓』巻之四・心術下一わが身に、事足ることを知れば、貧賤にしても、亦たのしむ。足ることを知らざれば、富貴なりといへども楽まず。一我が身の行の善悪は、世人の誉毀をあながちにかねにして、喜び懼るべからず。ただ道理を以て法とすべし。わが行道理にかなはば、世こぞりて毀るともおそるべからず。わが行道理にそむかば、世こぞりて誉るとも喜ぶべからず。よき人に誉られ、あしき人に毀らるるこそ、君子とはいふべけれ。人ごとにほむる者は、かへりてうたがはし。おほくは巧にして飾る人なるべし。
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『大和俗訓』巻之四・心術下一我が身すら、わが心にかなはず、自らせじと思ひし事をも、あやまりする事多し。いはんや人のわざ、わが思ふ如くなるべきやうなし。其上、人心の同じからざること、其面のごとし。人のわが心にかなはざるを恨むべからず。
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『大和俗訓』巻之四・心術下一世に居るには、人を悪みせむる心かろかるべし、重くすべからず。いかんとなれば、およその人、書をよみ古を学んでも、道にそむく人おほし。況や学ばざれば、世のことわりの善きも悪しきも知らず。知らずしてなせるひが事なれば、悪むべからず、あはれむべし。頑なるを怒りにくむ事なかれと、尚書にも見えたり。
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