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大和俗訓 / 巻之三・心術上

一むかし二人同じ船にのりて行くに、一人は性急なり。日和あしく、舟のおそきを苦みて、晝夜心をなやまし、形かじけたり。一人は性おだやかなり。舟のおそきを苦まず、よく食し、やすくいねて、顏色うるはし。其所につきしかば、二人一時に陸にあがる。此間、船おそきとて心をくるしめし者、何の益あるや。唯みづから苦めるのみ。是心みじかき人のいましめとすべし。天下の事、我が力になしがたきことは、唯天に任せ置くべし。心をくるしむるは愚なり。

新字:一むかし二人同じ船にのりて行くに、一人は性急なり。日和あしく、舟のおそきを苦みて、昼夜心をなやまし、形かじけたり。一人は性おだやかなり。舟のおそきを苦まず、よく食し、やすくいねて、顔色うるはし。其所につきしかば、二人一時に陸にあがる。此間、船おそきとて心をくるしめし者、何の益あるや。唯みづから苦めるのみ。是心みじかき人のいましめとすべし。天下の事、我が力になしがたきことは、唯天に任せ置くべし。心をくるしむるは愚なり。

書き下し

一むかし二人同じ船にのりて行くに、一人は性急なり。日和あしく、舟のおそきを苦みて、昼夜心をなやまし、形かじけたり。一人は性おだやかなり。舟のおそきを苦まず、よく食し、やすくいねて、顔色うるはし。其所につきしかば、二人一時に陸にあがる。此間、船おそきとて心をくるしめし者、何の益あるや。唯みづから苦めるのみ。是心みじかき人のいましめとすべし。天下の事、我が力になしがたきことは、唯天に任せ置くべし。心をくるしむるは愚なり。

現代語訳

昔、二人が同じ船に乗って行ったところ、一人はせっかちでした。天気が悪く、船の遅いのを苦にして、昼も夜も心を悩ませ、体はやつれてしまいました。もう一人は穏やかな性格でした。船の遅いのを苦にせず、よく食べ、安らかに眠って、顔色もつやつやしていました。目的地に着くと、二人は同時に陸に上がりました。この間、船が遅いといって心を苦しめた者に、何の益があったでしょうか。ただ自ら苦しんだだけです。これを気の短い人の戒めとすべきです。天下の事で、自分の力で成し遂げがたいことは、ただ天に任せておくべきです。心を苦しめるのは愚かなことです。

解説

同じ船に乗った二人のたとえ話で、気の短さを戒める段です。船の遅さを嘆いた人も、気にせずよく食べよく眠った人も、着く時は同じでした。心を苦しめた人はただ自分を苦しめただけだったのです。益軒は、自分の力でどうにもならないことは天に任せよと結びます。前段の「待」の工夫にも通じる教えです。電車の遅れや渋滞、結果待ちの時間など、自分では変えられない状況にやきもきしても何も変わりません。変えられることと変えられないことを分ける知恵として、今も役立つ話です。

この章句が説くこと

心忍耐天楽しみ平静

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