大和俗訓 / 巻之三・心術上
一心の中は灑落にして、靑天白日の如く明白なるべし。心の中に物をたくはへ、おほひくらますべからず。思慮は深く精しくすべし、淺くあらくすべからず。事をなすにはふかく思案を好みて、かるがるしく早く決定すべからず。思案は靜かにして急がざるをよしとす。はやく決定すれば、必あやまりあり。
新字:一心の中は灑落にして、青天白日の如く明白なるべし。心の中に物をたくはへ、おほひくらますべからず。思慮は深く精しくすべし、浅くあらくすべからず。事をなすにはふかく思案を好みて、かるがるしく早く決定すべからず。思案は静かにして急がざるをよしとす。はやく決定すれば、必あやまりあり。
書き下し
一心の中は灑落にして、青天白日の如く明白なるべし。心の中に物をたくはへ、おほひくらますべからず。思慮は深く精しくすべし、浅くあらくすべからず。事をなすにはふかく思案を好みて、かるがるしく早く決定すべからず。思案は静かにして急がざるをよしとす。はやく決定すれば、必あやまりあり。
現代語訳
心の中はさっぱりとして、青空の太陽のように明白であるべきです。心の中に物をため込んで、覆い隠し暗くしてはいけません。思慮は深く詳しくすべきで、浅く粗くしてはいけません。事をなすには、深く思案することを好んで、軽々しく早く決めてはいけません。思案は静かにして急がないのがよいのです。早く決めれば、必ず誤りがあります。
解説
心のあり方と思慮の仕方を対にして説く短い段です。心の中はわだかまりなく青天白日のようにさっぱりと明るく、思慮は深く詳しく静かに、というのが益軒の理想です。心に物をため込んで暗くするなという教えは、恨みや隠し事を抱えないことにも通じます。一方で、軽々しく早く決めるなという戒めは前の段と重なり、益軒が繰り返し強調するところです。心は軽やかに、考えは深く、という組み合わせは、ストレスをためずに良い判断をするための心得として今も役立ちます。
この章句が説くこと
心思慮判断平静誠
関連する章句
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『大和俗訓』巻之三・心術上一心は身の主にて、万事の本根なり。此故に、心正しからざれば身をさまらずして、家をととのへ、人ををさめがたし。たとへば草木の根堅からざれば、枝葉さかえず、家の主不徳なれば、家をさまらざるが如し。心を正しくする道は、まづ善をこのみ、悪を嫌ふこと真実なるを本とすべし。心の内に善をこのむ誠なく、悪をきらふ事まめやかならずんば、猶悪人の境界をまぬかれがたきゆゑ、心を正しくすべきやうなかるべし。是大学の道、心を正しくせんと欲しては、先其意を誠にするにあり。既に善をこのみ悪をきらふこと誠あらば、心を正しくする事やすかるべし。心を正しくすとは、心よりおこる所の喜・怒・哀・楽・愛・悪・慾の七情、よきほどに過不及なくして、片落ちざるを云ふ。喜ぶべくして喜び、其喜すごすべからず。怒るべくして怒り、其怒過すべからず。自余も亦かくの如くなるべし。七情過不及なくして、片落ちざれば、心の内とどこほりなくして、常に和平なり。是心正しきなり。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生に志あらん人は、心に常に主あるべし。主あれば思慮して是非をわきまへ、忿をおさへ、慾をふさぎて、あやまりすくなし。心に主なければ、思慮なくして、忿と慾をこらへず、恣にしてあやまり多し。一万の事、一時心に快き事は、必ず後に殃となる。酒食をほしいままにすれば、快けれどやがて病となるの類なり。初にこらふれば必ず後のよろこびとなる。灸治をしてあつきをこらふれば、後に病なきが如し。杜牧が詩に、忍過事堪喜といへるは、欲をこらへすまして後はよろこびとなるなり。
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『大和俗訓』巻之四・心術下一一指目をおほへば太山を見ずと、古語にいへり。人の心は、もと明なる物なりといへども、私欲のおほひありて心体をふさげば、くらくして道理に通ぜず。故に心を明かにして是非にまよはざらんことを思はば、私欲を去るべし。欲去れば心明なり。本心は日月の如し、嗜欲之を食して既くと、山谷が詩にも見えたり。
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『大和俗訓』巻之三・心術上一およそ人の一念の不善も、かならず天に通ずる理あり。天は高きに居て、ひききに聞くといへり。上天を欺くべからず。おそるべし。人をあざむけば、つひに其、偽あらはる。内に誠あれば、必外にあらはるといへり。下人をあざむくべからず。恥づべし。天を欺き、人をあざむくは、共に我が心を欺くによれり。我が心に不善と知りながら、これを行ふ、是自欺なり。我が心あざむくべからず。およそ、天と人と我が心と、皆あざむくべからず。唯一すぢに誠あるべし。ここを以て、君子の心は、つねに青天白日の如くなり。小人の心は、常に陰暗くしてはかりがたし。
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