大和俗訓 / 巻之三・心術上
一色慾名利の念、皆是人情なれば、時としておこりやすし。其まゝおきては德を害す。其おこる時にいましむるには、克己の工夫を用ふべし。己に克つこと、尤かたし。十分の力を用ふべし。おろそかにすべからず。但はじめて慾のおこるきざしに克つこと甚やすし。是克己の要法なり。平生學問し、道義を好む志ふかくば、おのづから名利色貨の念はうすくなるべし。天理すゝめば人欲しりぞく。人欲すゝめば天理しりぞく。凡物は二ながら一時に立たざる理なり。
新字:一色慾名利の念、皆是人情なれば、時としておこりやすし。其まゝおきては徳を害す。其おこる時にいましむるには、克己の工夫を用ふべし。己に克つこと、尤かたし。十分の力を用ふべし。おろそかにすべからず。但はじめて慾のおこるきざしに克つこと甚やすし。是克己の要法なり。平生学問し、道義を好む志ふかくば、おのづから名利色貨の念はうすくなるべし。天理すゝめば人欲しりぞく。人欲すゝめば天理しりぞく。凡物は二ながら一時に立たざる理なり。
書き下し
一色慾名利の念、皆是人情なれば、時としておこりやすし。其ままおきては徳を害す。其おこる時にいましむるには、克己の工夫を用ふべし。己に克つこと、尤かたし。十分の力を用ふべし。おろそかにすべからず。但はじめて慾のおこるきざしに克つこと甚やすし。是克己の要法なり。平生学問し、道義を好む志ふかくば、おのづから名利色貨の念はうすくなるべし。天理すすめば人欲しりぞく。人欲すすめば天理しりぞく。凡物は二ながら一時に立たざる理なり。
現代語訳
色欲や名利の思いは、みな人の情ですから、時として起こりやすいものです。そのままにしておけば徳を損ないます。それが起こる時に戒めるには、克己、すなわち己に克つ工夫を用いるべきです。己に克つことは最も難しいのです。十分な力を用いるべきです。おろそかにしてはいけません。ただし、欲が初めて起こる兆しに克つことは、たいへんたやすいのです。これが克己の大切な方法です。ふだん学問をし、道義を好む志が深ければ、自然と名利や色欲、財貨の思いは薄くなるはずです。天理が進めば人欲は退きます。人欲が進めば天理は退きます。およそ物は、二つが同時に並び立たない道理です。
解説
この章句が説くこと
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