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大和俗訓 / 巻之三・心術上

一平生の氣象は、從容としづかに和樂なるべし。輕卒急迫るべからず。和樂は人心に生れつきたる天機なり。つねに和樂を失ふべからず。又益なきことを思ひて、心をくるしめ、樂を失ふべからず。是不智といふべし。心のかろく速きをおさへ、又おこたりをいましめ、つねに心を定め、早からず遲からず、よき程なるが、心ををさむる法なり。心は身の主にて、萬事の本なれば、つねに靜かにやすらかにして、妄に動くべからず。心みだりに動けば、亂れて明ならず、萬事に應じて過多し。事いそがはしき時は、手足のうごき、口の物いふ事は、早からざれば事に及ばず。心はいそがはしかるべからず。手足と目口耳鼻は、たとへば下人のごとし。心は身の主にて、目口耳鼻手足の事のよしあしを正す役なり。

新字:一平生の気象は、従容としづかに和楽なるべし。軽卒急迫るべからず。和楽は人心に生れつきたる天機なり。つねに和楽を失ふべからず。又益なきことを思ひて、心をくるしめ、楽を失ふべからず。是不智といふべし。心のかろく速きをおさへ、又おこたりをいましめ、つねに心を定め、早からず遅からず、よき程なるが、心ををさむる法なり。心は身の主にて、万事の本なれば、つねに静かにやすらかにして、妄に動くべからず。心みだりに動けば、乱れて明ならず、万事に応じて過多し。事いそがはしき時は、手足のうごき、口の物いふ事は、早からざれば事に及ばず。心はいそがはしかるべからず。手足と目口耳鼻は、たとへば下人のごとし。心は身の主にて、目口耳鼻手足の事のよしあしを正す役なり。

書き下し

一平生の気象は、従容としづかに和楽なるべし。軽卒急迫るべからず。和楽は人心に生れつきたる天機なり。つねに和楽を失ふべからず。又益なきことを思ひて、心をくるしめ、楽を失ふべからず。是不智といふべし。心のかろく速きをおさへ、又おこたりをいましめ、つねに心を定め、早からず遅からず、よき程なるが、心ををさむる法なり。心は身の主にて、万事の本なれば、つねに静かにやすらかにして、妄に動くべからず。心みだりに動けば、乱れて明ならず、万事に応じて過多し。事いそがはしき時は、手足のうごき、口の物いふ事は、早からざれば事に及ばず。心はいそがはしかるべからず。手足と目口耳鼻は、たとへば下人のごとし。心は身の主にて、目口耳鼻手足の事のよしあしを正す役なり。

現代語訳

ふだんの気質は、ゆったりと静かに、和らぎ楽しんでいるべきです。軽はずみで、せかせかしてはいけません。和楽は人の心に生まれつき備わった天の働きです。いつも和楽を失ってはいけません。また益のないことを思って心を苦しめ、楽しみを失ってはいけません。これは不智というべきです。心の軽く速いのを抑え、また怠りを戒め、いつも心を定めて、早すぎず遅すぎず、程よくあるのが、心を治める法です。心は身の主人であり、あらゆる事の根本ですから、いつも静かに安らかにして、みだりに動いてはいけません。心がみだりに動けば、乱れて明らかでなくなり、あらゆる事に応じて過ちが多くなります。事が忙しい時は、手足の動きや口でものを言うことは、早くなければ間に合いません。しかし心は忙しくしてはいけません。手足や目・口・耳・鼻は、たとえば召使いのようなものです。心は身の主人で、目・口・耳・鼻・手足のすることのよしあしを正す役目です。

解説

心の平静と和楽を説く段です。益軒は、和楽は人に生まれつき備わった天の働きであり、益のないことをくよくよ思って楽しみを失うのは不智だと言います。のちの『楽訓』にもつながる考えです。印象的なのは、忙しい時でも手足や口は速く動かしてよいが、心まで忙しくしてはいけないという区別です。五官と手足を召使い、心を主人にたとえ、主人が落ち着いていてこそ召使いの働きを正せると説きます。忙しい職場でこそ、手は速く、心は静かにという心得が役に立ちます。

この章句が説くこと

心和楽平静楽しみ仕事

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