大和俗訓 / 巻之三・心術上
一欲を忍ぶこと、つとむべし。忍ぶとは、こらふるなり。學者もし欲をこらふるに力を用ひずんば、學べる甲斐なし。力なしといふべし。平生の學力、こゝにおいて用ふべし。一子弟及奴僕に對して、其過をたゞさば、敎を本とすべし。いかりを先だつべからず。如斯なれば、子弟奴僕の心を得て、恨なく、したがひやすし。是子弟奴僕をいましむるの要法なり。
新字:一欲を忍ぶこと、つとむべし。忍ぶとは、こらふるなり。学者もし欲をこらふるに力を用ひずんば、学べる甲斐なし。力なしといふべし。平生の学力、こゝにおいて用ふべし。一子弟及奴僕に対して、其過をたゞさば、教を本とすべし。いかりを先だつべからず。如斯なれば、子弟奴僕の心を得て、恨なく、したがひやすし。是子弟奴僕をいましむるの要法なり。
書き下し
一欲を忍ぶこと、つとむべし。忍ぶとは、こらふるなり。学者もし欲をこらふるに力を用ひずんば、学べる甲斐なし。力なしといふべし。平生の学力、ここにおいて用ふべし。一子弟及奴僕に対して、其過をたださば、教を本とすべし。いかりを先だつべからず。如斯なれば、子弟奴僕の心を得て、恨なく、したがひやすし。是子弟奴僕をいましむるの要法なり。
現代語訳
欲を忍ぶことに努めるべきです。忍ぶとは、こらえることです。学ぶ者がもし欲をこらえることに力を用いないなら、学んだかいがありません。力がないというべきです。ふだんの学問の力は、ここで用いるべきです。子弟や召使いに対して、その過ちを正すなら、教えることを根本とすべきです。怒りを先立ててはいけません。このようにすれば、子弟や召使いの心を得て、恨みもなく従いやすいのです。これが子弟や召使いを戒める大切な方法です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『大和俗訓』巻之六・躬行上一怒はつよく、欲はふかき故、是にかちがたし。力をつくして堪忍すべし。力よわければ、怒と欲にかちがたし。忍の字は、心の上に刄を書く。怒と欲の心起るを断去ること刄を以て切りたつが如くなるべし。是呉臨川が、忍の封をつくりし説なり。又敵にむかひて戦ふが如く、十分の力を用ふべし。如此せざれば、怒と欲とにまけやすし。堪忍の工夫なく、怒と慾とにかたざれば、平生の学問も用にたたず、いたづら事なり。
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『和俗童子訓』巻之二・総論下此の如くすれば、子弟我が非分なる事をば忘れて、父兄のいましめを怒り恨み、そむきて随はず、かへつて父子兄弟の間も不和になり、相破れて、恩をそこなふに至る。唯従容として厳正に教へ、幾度もくり返し、やうやく告げ戒むべし。是子弟を教へ、人材を養ひ成す法なり。父兄となれる人は、此心得あるべし。子弟となる人は、父兄の怒甚しく、悪口して責め恥めらるるとも、いよいよ恐れ慎みて、つゆばかりも怒り恨むべからず。
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『大和俗訓』巻之四・心術下一心は天君にて、身の主なり。つねに楽ましむべし、くるしむべからず。わが身貧賤にして、或は不意の禍ありとも、これ天命なれば、うれふべからず。楽を失ふべからず。又人の我に悪しきをば、忍びてゆるすべし。うれふべからず。かくの如くすれば、心のくるしみなく、楽多し。身のまどしきをうれひ、又みだりに人をいかり悪みて、わが心を苦めそこなふべからず。人の無礼にして、我ををかしあなどるとも、おろかなる故と思ひ、いかり悪むべからず。子弟のともがら、我におろそかなりとも道を知らざる故と思ひ、いかるべからず。心をくるしめて益なし。下部などは、に習はし悪しければ、おろかにしてさとしがたし。その悪しきを、いましめ教ふるはよし、怒りせめて、言と色とをはげしくすべからず。我が心の和楽をやぶり、人のうらみをとる。言と顔色とはげしからざれども、わが行正しく、言にたはぶれなければ人自らおそれて侮らず。
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『大和俗訓』巻之五・言語一人のあやまちを正して、言ひきかせ、改めんことを教へすすむるは、善事なり。既に過去りたる過を、かへすがへす言出し、とがむべからず。凡人のあやまりて為つる事か、又知らずしてしそんじたる事は、力及ばず。其あやまりをば告聞すべし。しばしば言出してせむべからず。其人我が身をば責めずして、うらみ怒りてそむく。
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『大和俗訓』巻之四・心術下一世に居るには、人を悪みせむる心かろかるべし、重くすべからず。いかんとなれば、およその人、書をよみ古を学んでも、道にそむく人おほし。況や学ばざれば、世のことわりの善きも悪しきも知らず。知らずしてなせるひが事なれば、悪むべからず、あはれむべし。頑なるを怒りにくむ事なかれと、尚書にも見えたり。
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『大和俗訓』巻之四・心術下一人の過をそしり、不善あるを甚しくせめ恥しむべからず。必人のうらみとなる。或はとがある人をうちたたきて、一旦心に快くすといへども、其人もし堪忍せずして報いば、大なるわざはひとなる。怒をおさへて、後のわざはひを能くかんがへ、わが心に十分快きを求むべからず。いやしき下部に対しても、此心づかひあるべし。
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