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大和俗訓 / 巻之三・心術上

慾とは、唯財寶をむさぼるのみにあらず、名利、酒食、好色、或は、淫樂、器物、酒宴、佚遊を好みおぼれて、我が私をなすは、皆慾なり。慾をふさぐとは、慾心おこらば、はやく其慾をおさふるを云ふ。すでに慾さかんになりぬれば、心まよひて慾にかちがたし。慾のはじめておこる時、早くふさげば、力を用ふる事すこしにして、其しるし多し。慾は陰に屬す。たとへば水の人をおほらすが如く、おぼれやすし。およそ萬の惡は、多くは怒と慾よりおこる。七情の内の二の者、尤害多し。我が身をそこなひ、人をそこなふ。おそるべし。又怒と慾との二は、養生の道に甚害あり。

新字:慾とは、唯財宝をむさぼるのみにあらず、名利、酒食、好色、或は、淫楽、器物、酒宴、佚遊を好みおぼれて、我が私をなすは、皆慾なり。慾をふさぐとは、慾心おこらば、はやく其慾をおさふるを云ふ。すでに慾さかんになりぬれば、心まよひて慾にかちがたし。慾のはじめておこる時、早くふさげば、力を用ふる事すこしにして、其しるし多し。慾は陰に属す。たとへば水の人をおほらすが如く、おぼれやすし。およそ万の悪は、多くは怒と慾よりおこる。七情の内の二の者、尤害多し。我が身をそこなひ、人をそこなふ。おそるべし。又怒と慾との二は、養生の道に甚害あり。

書き下し

慾とは、唯財宝をむさぼるのみにあらず、名利、酒食、好色、或は、淫楽、器物、酒宴、佚遊を好みおぼれて、我が私をなすは、皆慾なり。慾をふさぐとは、慾心おこらば、はやく其慾をおさふるを云ふ。すでに慾さかんになりぬれば、心まよひて慾にかちがたし。慾のはじめておこる時、早くふさげば、力を用ふる事すこしにして、其しるし多し。慾は陰に属す。たとへば水の人をおほらすが如く、おぼれやすし。およそ万の悪は、多くは怒と慾よりおこる。七情の内の二の者、尤害多し。我が身をそこなひ、人をそこなふ。おそるべし。又怒と慾との二は、養生の道に甚害あり。

現代語訳

欲とは、ただ財宝をむさぼることだけではありません。名利、酒食、好色、あるいはみだらな音楽、器物、酒宴、遊びを好み溺れて、自分の私をなすのは、みな欲です。欲をふさぐとは、欲の心が起こったら、早くその欲を抑えることをいいます。欲がすでに盛んになってしまえば、心が迷って欲に勝ちにくくなります。欲が初めて起こる時に早くふさげば、力を用いることが少なくて、その効き目が多いのです。欲は陰に属します。たとえば水が人を溺れさせるように、溺れやすいのです。およそあらゆる悪は、多くは怒りと欲から起こります。七情のうちこの二つが最も害が多いのです。自分の身を損ない、人を損ないます。恐るべきです。また怒りと欲の二つは、養生の道にはなはだ害があります。

解説

前段の続きで「慾を窒ぐ」を説きます。欲は財宝だけでなく、名誉、酒食、色、遊び、道具集めなど、自分の私に溺れることすべてだと益軒は広く定義します。要点は、欲が盛んになってからでは勝ちにくいので、起こり始めにふさぐことです。怒りを火、欲を水にたとえ、あらゆる悪の多くはこの二つから起こると言い、最後に養生の害にも触れるのは、のちに『養生訓』を著す益軒らしい視点です。衝動買いや夜更かしも、最初の一歩で止めるのが最も楽だというのは実感にかなう教えです。

この章句が説くこと

欲怒り養生易経節制

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