大和俗訓 / 巻之三・心術上
一易に、懲忿窒慾といへり。忿をこらすとは、いかりをおさふるなり。怒は陽に屬して、火の物をやくが如し。おこりやすくして人を害し、我が心の德をそこなふこと甚し。いかる時、先いかりをわすれ、心を和平にして、後理の是非を見るべし。又いかる時、言をいだすべからず。いかる時言を出す詞は、必ひが事ありて後悔多し。つゝしみこらへて、言ふべからず。人のいふこと、行ふこと、惡しき事あらば、怒らずして、彌氣を平かにし、心を和かにして、其是非を詳かに述ぶべし。人隨はずともいかりて心を動かし、氣をあらくすべからず。心氣和平ならざれば、たとひ其いふこと理に當るとも、其心はまづ非なり。いはんや怒りて心をうごかせば、其いふこと理にあたらざるをや。
新字:一易に、懲忿窒慾といへり。忿をこらすとは、いかりをおさふるなり。怒は陽に属して、火の物をやくが如し。おこりやすくして人を害し、我が心の徳をそこなふこと甚し。いかる時、先いかりをわすれ、心を和平にして、後理の是非を見るべし。又いかる時、言をいだすべからず。いかる時言を出す詞は、必ひが事ありて後悔多し。つゝしみこらへて、言ふべからず。人のいふこと、行ふこと、悪しき事あらば、怒らずして、弥気を平かにし、心を和かにして、其是非を詳かに述ぶべし。人随はずともいかりて心を動かし、気をあらくすべからず。心気和平ならざれば、たとひ其いふこと理に当るとも、其心はまづ非なり。いはんや怒りて心をうごかせば、其いふこと理にあたらざるをや。
書き下し
一易に、懲忿窒慾といへり。忿をこらすとは、いかりをおさふるなり。怒は陽に属して、火の物をやくが如し。おこりやすくして人を害し、我が心の徳をそこなふこと甚し。いかる時、先いかりをわすれ、心を和平にして、後理の是非を見るべし。又いかる時、言をいだすべからず。いかる時言を出す詞は、必ひが事ありて後悔多し。つつしみこらへて、言ふべからず。人のいふこと、行ふこと、悪しき事あらば、怒らずして、弥気を平かにし、心を和かにして、其是非を詳かに述ぶべし。人随はずともいかりて心を動かし、気をあらくすべからず。心気和平ならざれば、たとひ其いふこと理に当るとも、其心はまづ非なり。いはんや怒りて心をうごかせば、其いふこと理にあたらざるをや。
現代語訳
『易経』に「怒りをこらし、欲をふさぐ」とあります。怒りをこらすとは、怒りを抑えることです。怒りは陽に属し、火が物を焼くようなものです。起こりやすくて人を害し、自分の心の徳を損なうことがはなはだしいのです。怒る時は、まず怒りを忘れ、心を穏やかにしてから、道理の是非を見るべきです。また怒る時は、言葉を出してはいけません。怒る時に出す言葉には、必ず筋違いがあって後悔が多いのです。つつしみこらえて、言ってはいけません。人の言うことや行うことに悪いことがあれば、怒らずに、いよいよ気を平らかにし、心を和らげて、その是非を詳しく述べるべきです。人が従わなくても、怒って心を動かし、気を荒くしてはいけません。心と気が穏やかでなければ、たとえ言うことが道理に当たっていても、その心がまず間違っています。まして怒って心を動かせば、言うことが道理に当たらないのは言うまでもありません。
解説
この章句が説くこと
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