大和俗訓 / 巻之三・心術上
一およそ人の一念の不善も、かならず天に通ずる理あり。天は高きに居て、ひきゝに聞くといへり。上天を欺くべからず。おそるべし。人をあざむけば、つひに其、僞あらはる。内に誠あれば、必外にあらはるといへり。下人をあざむくべからず。恥づべし。天を欺き、人をあざむくは、共に我が心を欺くによれり。我が心に不善と知りながら、これを行ふ、是自欺なり。我が心あざむくべからず。およそ、天と人と我が心と、皆あざむくべからず。唯一すぢに誠あるべし。こゝを以て、君子の心は、つねに靑天白日の如くなり。小人の心は、常に陰暗くしてはかりがたし。
新字:一およそ人の一念の不善も、かならず天に通ずる理あり。天は高きに居て、ひきゝに聞くといへり。上天を欺くべからず。おそるべし。人をあざむけば、つひに其、偽あらはる。内に誠あれば、必外にあらはるといへり。下人をあざむくべからず。恥づべし。天を欺き、人をあざむくは、共に我が心を欺くによれり。我が心に不善と知りながら、これを行ふ、是自欺なり。我が心あざむくべからず。およそ、天と人と我が心と、皆あざむくべからず。唯一すぢに誠あるべし。こゝを以て、君子の心は、つねに青天白日の如くなり。小人の心は、常に陰暗くしてはかりがたし。
書き下し
一およそ人の一念の不善も、かならず天に通ずる理あり。天は高きに居て、ひききに聞くといへり。上天を欺くべからず。おそるべし。人をあざむけば、つひに其、偽あらはる。内に誠あれば、必外にあらはるといへり。下人をあざむくべからず。恥づべし。天を欺き、人をあざむくは、共に我が心を欺くによれり。我が心に不善と知りながら、これを行ふ、是自欺なり。我が心あざむくべからず。およそ、天と人と我が心と、皆あざむくべからず。唯一すぢに誠あるべし。ここを以て、君子の心は、つねに青天白日の如くなり。小人の心は、常に陰暗くしてはかりがたし。
現代語訳
およそ人の一瞬の不善な思いも、必ず天に通じる道理があります。「天は高いところにいて、低いところのことを聞く」と言われます。上の天を欺いてはいけません。恐るべきです。人を欺けば、ついにはその偽りが現れます。「内に誠があれば、必ず外に現れる」と言われます。下の人を欺いてはいけません。恥ずべきです。天を欺き、人を欺くのは、どちらも自分の心を欺くことから起こります。自分の心に不善と知りながらこれを行う、これが自らを欺くということです。自分の心を欺いてはいけません。およそ天と人と自分の心と、どれも欺いてはいけません。ただひたすら誠であるべきです。ですから、君子の心はいつも青空に照る太陽のようです。小人の心はいつも陰って暗く、はかりがたいのです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『楽訓』巻之中・節序一すべて一年の内、月日のめぐり、四時の行はれ、百物のなれるついで、年ごとにたがはず。万古より末の世までかはらざること、天道の誠いたつて貴ぶべし。しづかにして是を感ずる人は、其楽深かるべし。もしよく此理を知れらん人は、即道を知れる人なるべし。
-
『五常訓』巻之一・総論一天の道、万古よりこのかた、常に行はれて止まず。春夏秋冬の序、日月のめぐり、寒暑温涼のおしうつる、皆其時たがはず。万物の生ずる、年々に、各其形色をあらためず。桃は紅に、李は白くして、万世までもかはらず。是即天道の誠なり。人の性に仁義礼智の四徳ありて、其中におのづから信あるは、天道の元亨利貞の内に誠あるが如し。天地の運行、人物の性、万世にいたりてかはらず。是即天道の誠なり。
-
『益軒家訓』幼児須教一凡我子孫たらんもの、一生の心法真実にして私曲なく、人に愛敬有て、忿を懲し慾を窒ぎ、善に移り過を改め、常に天道を恐れ敬ふべし。必おろそかに侮る事なかれ。人の一生の勤は、唯天道に仕へ奉るべきなり。天理は学問して知るべし。又正敷神明を敬ふべし。神に諂ひ瀆して、猥に幸福を求むる事なかれ。神は非礼をうけ給はねば、道なくて幸を祈るに、必験なし。人の義を務めずして神に求むるは、神の御心に違ひ、助なくて責あり。いたつて愚なるなり。或云、心だに誠の道にかなひなば、祈らずとても神や守らん。
-
『童子問』卷下問ふ、知命の説に於て、未だ釈然たること能はず。願はくは其の奥旨を発せよ。曰く、蓬も麻中に生ずれば、直からざること能はず。天道は正直にして、四旁上下、渾渾淪淪として、通徹して間無く、斯の理に非ざる莫し。火に近づけば則ち焦げ、水に近づけば則ち濡る。豈に不正不直を以て須臾も身を其の間に置くことを得んや。孔子曰く、君子は天命を畏る。小人は天命を知らずして畏れずと。其の之を畏るる者は、実に畏怖すべくして、慢るべからざるの理有るを以てなり。蓋し夫子五十にして天命を知り、以後初めて語を置くこと此くのごとし。一毫の聡明を作さず、一毫の智見を挟まず、至誠正直にして、内外表裏、打して一片と成り、而る後に以て自得すべし。聡明智見を以て之を得べきに非ざるなり。
-
『初学訓』巻之一一天道は、元亨利貞の四徳なり。元ははじまるなり、春の徳なり。亨はとほるなり、夏の徳なり。利はとぐるなり、秋の徳なり。貞は正しきなり、冬の徳なり。又春夏秋冬の理なり。此道、古今にかはらず。春はあたたかに、夏はあつく、秋すずしく、冬さむきも、春は草木生じ、夏はしげり、秋はをさまりみのり、冬はひそまりかくるるも、古今年毎に、常にしてかはらず。皆是、天道の誠なり。誠なければ常なし。人の心に信あるは、天道に誠あるが如し。信ありて、仁義礼智の徳、実にして行はる。
-
『大和俗訓』巻之三・心術上一我が身の慾を恣にするより大なる禍なし。人の非をそしるより大なる悪なしと、古人いへり。此二は、義理に乖くのみならず、身を亡す道なり。常に心にかけて戒むべし。一凡平生の心法は、真実にして偽なかるべし。中庸に、誠は天の道なり、之を誠にする者は、人の道なりといへり。誠は天の道なりとは、陰陽のしわざ、日月のめぐり、春夏秋冬の次第、いにしへ今かはらず、草木の、春生じ、夏長じ、秋みのり、冬をさまりて、年々にかはりなきも、皆是天道の誠なり。之を誠にすとは、人の力にて、つとめて誠にするを云ふ。人は天地の子なれば、天道の誠を法とし、したがひて行ふべし。是之を誠にするは人の道なり。孔子も忠信を主とすとのたまへり。此意は、誠を以て人の心の主とすべしとなり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る