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大和俗訓 / 巻之三・心術上

かへすがへす我が身ひとつを愛して、人を愛せず、多くの人を苦むべからず。かりにも人に妨なく、害なからん事を思ふべし。人のうれひ苦みを救ひ、人のためにはかりて忠あるべし。疎略にすべからず。位ひきゝ人我に財ありて施す力あらば、貧窮をすくひ、鰥寡孤獨の、たよりなく苦める人を、分限にしたがひて憐みたすくべし。財ををしむべからず。次には禽獸蟲魚草木に至るまで、ひろくあはれむべし。是等は天地の内にて、我が兄弟の列にはあらざれども、同じく天地の内に生ずる物にして、もとは一氣なれば、同類の思をなして、みだりにそこなふべからず。但人に妨ある禽獸をば除くべし。是皆仁を行ふ工夫なり。下にある賤しき匹夫のともがら、諸人の補にならん事は、もとより力に及ばざる所なり。

新字:かへすがへす我が身ひとつを愛して、人を愛せず、多くの人を苦むべからず。かりにも人に妨なく、害なからん事を思ふべし。人のうれひ苦みを救ひ、人のためにはかりて忠あるべし。疎略にすべからず。位ひきゝ人我に財ありて施す力あらば、貧窮をすくひ、鰥寡孤独の、たよりなく苦める人を、分限にしたがひて憐みたすくべし。財ををしむべからず。次には禽獣虫魚草木に至るまで、ひろくあはれむべし。是等は天地の内にて、我が兄弟の列にはあらざれども、同じく天地の内に生ずる物にして、もとは一気なれば、同類の思をなして、みだりにそこなふべからず。但人に妨ある禽獣をば除くべし。是皆仁を行ふ工夫なり。下にある賤しき匹夫のともがら、諸人の補にならん事は、もとより力に及ばざる所なり。

書き下し

かへすがへす我が身ひとつを愛して、人を愛せず、多くの人を苦むべからず。かりにも人に妨なく、害なからん事を思ふべし。人のうれひ苦みを救ひ、人のためにはかりて忠あるべし。疎略にすべからず。位ひきき人我に財ありて施す力あらば、貧窮をすくひ、鰥寡孤独の、たよりなく苦める人を、分限にしたがひて憐みたすくべし。財ををしむべからず。次には禽獣虫魚草木に至るまで、ひろくあはれむべし。是等は天地の内にて、我が兄弟の列にはあらざれども、同じく天地の内に生ずる物にして、もとは一気なれば、同類の思をなして、みだりにそこなふべからず。但人に妨ある禽獣をば除くべし。是皆仁を行ふ工夫なり。下にある賤しき匹夫のともがら、諸人の補にならん事は、もとより力に及ばざる所なり。

現代語訳

くれぐれも、自分の身一つを愛して人を愛さず、多くの人を苦しめてはいけません。かりにも人の妨げとならず、害がないようにと思うべきです。人の憂いや苦しみを救い、人のために考えて真心を尽くすべきです。おろそかにしてはいけません。身分の低い人でも、自分に財があって施す力があれば、貧しい人を救い、鰥寡孤独の頼りなく苦しむ人を、分に応じてあわれみ助けるべきです。財を惜しんではいけません。その次には、鳥獣や虫魚、草木に至るまで、広くあわれむべきです。これらは天地の内にあって、自分の兄弟の列ではないけれども、同じく天地の内に生まれたもので、もとは一つの気ですから、同類と思って、むやみに損なってはいけません。ただし人に害のある鳥獣は除くべきです。これはみな仁を行う工夫です。下にいる身分の低い庶民が、多くの人の助けになることは、もとより力の及ばないところです。

解説

為政者だけでなく、身分が低くても財に余裕のある者は施せと説く段です。益軒は、分限に応じて困窮者を助け、財を惜しむなと言い、さらに鳥獣虫魚から草木まで、もとは一つの気から生まれた同類として大切にせよと広げます。ただし人に害のある鳥獣は除くという現実的な但し書きも添えています。寄付やボランティアを、立場や規模に関係なく分に応じて行うという考え方は、今の社会貢献のあり方として無理がなく、誰にでも始められるものです。

この章句が説くこと

仁施し財分限自然

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