大和俗訓 / 巻之三・心術上
されども、賤しくして下にある者も、仁愛の心だにあらば、其分に應じ、其力にしたがひて、心を用ひて人を救ふこと、日々に多かるべし。然れば仁愛は、いやしき人も心にかけて勤め行ふべきことなり。是卽天地の御心にうけしたがひて、天地につかへ奉る道なり。
新字:されども、賤しくして下にある者も、仁愛の心だにあらば、其分に応じ、其力にしたがひて、心を用ひて人を救ふこと、日々に多かるべし。然れば仁愛は、いやしき人も心にかけて勤め行ふべきことなり。是即天地の御心にうけしたがひて、天地につかへ奉る道なり。
書き下し
されども、賤しくして下にある者も、仁愛の心だにあらば、其分に応じ、其力にしたがひて、心を用ひて人を救ふこと、日々に多かるべし。然れば仁愛は、いやしき人も心にかけて勤め行ふべきことなり。是即天地の御心にうけしたがひて、天地につかへ奉る道なり。
現代語訳
けれども、身分が低く下にいる者でも、仁愛の心さえあれば、その分に応じ、その力に従って、心を用いて人を救うことが、日々多くあるはずです。ですから仁愛は、身分の低い人も心にかけて努め行うべきことです。これはすなわち天地の御心を受けて従い、天地にお仕えする道なのです。
解説
前段の結びで、財や力のない庶民であっても、仁愛の心さえあれば日々人を救えると励ます段です。益軒は、大きな施しができないことを言い訳にせず、自分の分と力に応じて心を用いればよいと言います。これが天地の御心に従い、天地に仕える道だとすることで、身分の低い人の小さな親切にも大きな意味を与えています。お金がなくても、声をかける、手を貸す、話を聞くといった行いで人を助けることはできるという、誰にでも開かれた教えです。
この章句が説くこと
仁愛親切分限天地善
関連する章句
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『大和俗訓』巻之三・心術上かへすがへす我が身ひとつを愛して、人を愛せず、多くの人を苦むべからず。かりにも人に妨なく、害なからん事を思ふべし。人のうれひ苦みを救ひ、人のためにはかりて忠あるべし。疎略にすべからず。位ひきき人我に財ありて施す力あらば、貧窮をすくひ、鰥寡孤独の、たよりなく苦める人を、分限にしたがひて憐みたすくべし。財ををしむべからず。次には禽獣虫魚草木に至るまで、ひろくあはれむべし。是等は天地の内にて、我が兄弟の列にはあらざれども、同じく天地の内に生ずる物にして、もとは一気なれば、同類の思をなして、みだりにそこなふべからず。但人に妨ある禽獣をば除くべし。是皆仁を行ふ工夫なり。下にある賤しき匹夫のともがら、諸人の補にならん事は、もとより力に及ばざる所なり。
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『大和俗訓』巻之三・心術上一人は、天地の子なり。天地を法として行ふべし。天地は別に心なし、万物をあはれむを以て心とせり。別にしわざなし、万物を産み出し養ふを以てわざとせり。人も亦この心をうけて、常に人に恵みあはれむを以て心とすべし。別の念あるべからず。人をたすけ救ふを以てわざとすべし。別のわざあるべからず。故に天下の人、王公より以下庶人にいたる迄、日々行ふべき善事あり。善を行ふべき位にあり、時にあたらば、むなしく過ぐべからず。是天につかへ奉りて、天職をつとむるなり。
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『大和俗訓』巻之三・心術上一人となる者は、天地の心に随ひ、仁愛を以て心とし行ふべし。己を愛する心を以て人を愛す、是仁なり、人の心なり。禽獣は、おのが身を愛する事のみ知りて、物を愛せず。人もし不仁にして、唯我が身を愛して人を愛せずんば、人の心にあらず。禽獣と何ぞことならんや。不仁なれば人心を失ふ故、其余の才能のよき事は見るにたらず。
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『大和俗訓』巻之六・躬行上其費を以て貧人をやしなはば、大なる利益なるべし。善を行ふとは、ただ人の利益になることを行ふにあり。人を利益すれば、天地神明の御心にかなひて、つひに其むくいありて、さいはひを得る理古来そのためし多し。およそ善を行ひて人をすくふこと、上は王公より、下は乞丐にいたるまで、行ふべき道あり。富貴貧賤によらず、ただ善を行ふ志だにあらば、善行はれずといふことなし。善を行ふべき時にあたりて、心をつくすべし。怠るべからず。まづしく賤しき人も、仁に志して行へば、其身に応じ、日々に人に利益あること多し。いはんや富貴の人其志あれば、人を救ふことひろく、其功大なり。たかきも賤しきも、怠なく久しく行へば、善をつむこと限りなし。
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『大和俗訓』巻之七・躬行下一不仁にして吝嗇なれば、財多くもちても、人をすくひ恵むことなし。吝嗇ならざる人仁愛に心を用ひざれば、其施なくして、かへりて無益の事に財をつひやす。両事をあげていはば、門内に饑に及べる乞食貧人来りて食をこへども、心を用ひて是をめぐまざれば、家のやつこも食をあたへず。又寒夜に客来りて語るに、客にしたがひ来れる下部などを、屋の内寒からざる所に入れ置き、こごえざるやうにするは、いと易き事なるに、客に対するに専らにして、まぎらはしく、従者の寒気にくるしむべきを心にかけざれば、彼が飢寒を知らずして、いたはる事なし。是心を用ひざればなり。善を行ふに志あらん人は、万の事、折節につけて、心を用ひて、人の苦なからん事を思ひはかりて、人をすくふべし。
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『大和俗訓』巻之八・応接一親しき人を愛し、貴き人をうやまふは、言ふに及ばず、うとき路人に対し、いやしき乞丐に対すとも、皆是天地のうめる人なれば、其分にしたがひて愛敬すべし。悪みあなどるべからず。疎き親しきにより、貴き賤しきにしたがひて、愛敬する厚薄はあるべけれど、愛敬せざる事なかるべし。
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