大和俗訓 / 巻之三・心術上
人物を愛するに、親しきよりうときに及び、重きより輕きにいたるべし。輕重親疎の差別なく、平等に愛するは義にあらず。墨子が兼愛とて、天下の人を一樣に愛するは、父母をも路人と同じくするなり。是仁の道を知らずして、義にかなはざるなり。
新字:人物を愛するに、親しきよりうときに及び、重きより軽きにいたるべし。軽重親疎の差別なく、平等に愛するは義にあらず。墨子が兼愛とて、天下の人を一様に愛するは、父母をも路人と同じくするなり。是仁の道を知らずして、義にかなはざるなり。
書き下し
人物を愛するに、親しきよりうときに及び、重きより軽きにいたるべし。軽重親疎の差別なく、平等に愛するは義にあらず。墨子が兼愛とて、天下の人を一様に愛するは、父母をも路人と同じくするなり。是仁の道を知らずして、義にかなはざるなり。
現代語訳
人や物を愛するには、親しい者から疎遠な者へ、重いものから軽いものへと及ぼすべきです。軽重や親疎の区別なく、平等に愛するのは義ではありません。墨子が兼愛といって、天下の人を一様に愛するのは、父母をも道を行く見知らぬ人と同じに扱うことです。これは仁の道を知らず、義にかなわないのです。
解説
前段の「愛の順序」を受けて、区別のない平等な愛を退ける短い段です。墨子の兼愛説を、父母を路傍の人と同じにするものとして批判するのは、『孟子』滕文公下以来の儒家の伝統的な立場です。益軒は、愛そのものを否定するのではなく、近い者から遠い者へと順に及ぼすことが仁であり義だと言います。まず身近な家族や仲間を大切にし、その上で広く社会に思いやりを広げるという順序は、無理のない社会貢献や組織づくりの考え方としても参考になります。
この章句が説くこと
仁義兼愛墨子家族
関連する章句
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『童子問』卷下問ふ、老氏の虚無と、釈氏の寂滅と、亦異なる所有りや。曰く、浅深有るがごとしと雖も、然れども其の帰は則ち一なり。老氏は天地万物を以て皆虚無と為し、釈氏は天地万物を以て総べて寂滅と為す。後漢書に云ふ、其の道虚無を以て宗と為すと。是れのみ。其の他種種奇特神通を説くは、皆方便の説のみ。老氏に至つては反つて之無し。仏は慈悲済度を以て主と為す。禅に至つては、則ち一向に棄て去る。理を説くこと至つて高ければ、必ず此に到らざることを得ず。其の慈悲済度を主とするは、仁に似たり。然れども義を知らざるは、則ち一なり。殊に知らず、義は天下の大路にして、一日も離るべからざることを。老氏も亦然り。
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