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大和俗訓 / 巻之三・心術上

一つねに心の内をかへりみて、一點の私欲邪念あらば早く去るべし。私欲とは、名利色貨の欲とて、名聞を好み、利分を好み、色を好み貨を好むの類、竝に耳目口體の好む所の、身に私する慾をいふ。邪念とは、人をしへたげ、人と怒りあらそひ、我が身にほこり、人をあなどり、人をそねみそしり、人にへつらひ、人をあざむき僞るのたぐひをいふ。皆是邪惡の心なり。もし是等の事つゆばかりもあらば、速かに去るべし。心を害する事甚しければなり。又氣質の偏あらば勝つべし。氣質の偏とは、生れつきに片落ちたる所あるをいふ。氣のあらきと騒がしきと、又やはらかすぎて弱き或ははやすぎると鈍くゆる過ぎたるのたぐひ、或は生れつきて怒おほく、慾おほきのたぐひをいふ。

新字:一つねに心の内をかへりみて、一点の私欲邪念あらば早く去るべし。私欲とは、名利色貨の欲とて、名聞を好み、利分を好み、色を好み貨を好むの類、並に耳目口体の好む所の、身に私する慾をいふ。邪念とは、人をしへたげ、人と怒りあらそひ、我が身にほこり、人をあなどり、人をそねみそしり、人にへつらひ、人をあざむき偽るのたぐひをいふ。皆是邪悪の心なり。もし是等の事つゆばかりもあらば、速かに去るべし。心を害する事甚しければなり。又気質の偏あらば勝つべし。気質の偏とは、生れつきに片落ちたる所あるをいふ。気のあらきと騒がしきと、又やはらかすぎて弱き或ははやすぎると鈍くゆる過ぎたるのたぐひ、或は生れつきて怒おほく、慾おほきのたぐひをいふ。

書き下し

一つねに心の内をかへりみて、一点の私欲邪念あらば早く去るべし。私欲とは、名利色貨の欲とて、名聞を好み、利分を好み、色を好み貨を好むの類、並に耳目口体の好む所の、身に私する慾をいふ。邪念とは、人をしへたげ、人と怒りあらそひ、我が身にほこり、人をあなどり、人をそねみそしり、人にへつらひ、人をあざむき偽るのたぐひをいふ。皆是邪悪の心なり。もし是等の事つゆばかりもあらば、速かに去るべし。心を害する事甚しければなり。又気質の偏あらば勝つべし。気質の偏とは、生れつきに片落ちたる所あるをいふ。気のあらきと騒がしきと、又やはらかすぎて弱き或ははやすぎると鈍くゆる過ぎたるのたぐひ、或は生れつきて怒おほく、慾おほきのたぐひをいふ。

現代語訳

いつも心の内をふり返って、少しでも私欲や邪念があれば早く取り去るべきです。私欲とは、名利色貨の欲といって、名声を好み、利益を好み、色を好み、財貨を好むといった類い、ならびに耳目口体の好むところの、自分の身だけを利する欲をいいます。邪念とは、人をしいたげ、人と怒り争い、自分を誇り、人を侮り、人をねたみそしり、人にへつらい、人をあざむき偽るといった類いをいいます。これらはみな邪悪な心です。もしこうした事が露ほどでもあれば、すぐに取り去るべきです。心を損なうことがはなはだしいからです。また気質の偏りがあれば、それに打ち勝つべきです。気質の偏りとは、生まれつき偏ったところがあることをいいます。気の荒いことや騒がしいこと、また柔らかすぎて弱いこと、あるいはせっかちすぎることや鈍くのろすぎることといった類い、あるいは生まれつき怒りっぽい、欲が多いといった類いをいいます。

解説

心を損なうものとして、益軒は「私欲・邪念」と「気質の偏り」を挙げ、具体的に列挙します。私欲は名誉・利益・色・財の欲、邪念は人を虐げる、ねたむ、へつらう、偽るといった心です。気質の偏りは、荒い、騒がしい、弱い、せっかち、のろい、怒りっぽいといった生まれつきの癖です。朱子学の「気質の性」の考えを、誰にでも思い当たる性格の癖として示したところが分かりやすい点です。自分の癖を知り、それに打ち勝とうとする姿勢は、今の自己理解や人材育成にも通じます。

この章句が説くこと

私欲邪念気質心克己

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